第26回 女たちが祈ってきた道

「ボン・カミーノ!(よい巡礼を!)」

復活祭のパレード

レオンでは、ちょうど復活祭のパレードが行われていた。

ガイドブックの写真ではKKKのようでちょっと怖いなと思っていたのだが、実際に近くで見ると、とんがり帽子がかわいらしい。

だが、楽団の奏でる旋律はどこまでも厳かだ。

いよいよ祈りの道、エル・カミーノに来ているのだ、という臨場感がある。

旅の最初に、初めて徒歩の巡礼者を見た時は、感動して思わず車を路肩に寄せ、その後姿をカメラにおさめた。

その中年男性は、雨がっぱを足首まですっぽりとはおり、木の杖を右手に握って歩いていた。

大きなバックパックには、紐で吊り下げられたホタテの貝殻が揺れている。

これこそ、典型的な巡礼者のいでたちだ。

ハカという街の近郊にあるサン・ホアン・デ・ラ・ペーニャの修道院の売店で、私たち‘巡礼者もどき’も、さっそくホタテ貝の表面に朱で十字の刻まれた巡礼者の「印籠」を手に入れた。

バックパックに速攻で吊るして巡礼者のマインドセット。

なんでもまずはカタチから入った方がいいものだ。

それ以降、レストランや教会でホタテ貝を見た地元の人々や巡礼者たちから、「ボン・カミーノ!(よい巡礼を!)」と声をかけられるようになった。

それまでは声をかけられなかったので、やっぱりホタテを首から下げたりして目に見えるようにすることは大事なことなのだ。

赤ちゃんを身籠れますように、という祈り

放射線状のラインがシンボリスティックな貝は巡礼の目印。こうして聖水をそそぐ器もホンモノの貝(それにしても巨大)に銀細工をほどこしたもの。〉

聖水をそそぐ器もホンモノの貝

その昔、子どもがいなくて悲しんでいたスペインの王妃がその場所を訪れたとたんに赤ちゃんを授かったという不思議な言い伝えの残るバシリカにも足を運んだ。身籠れますように。。。

ああ赤ちゃん。。。女たちが時代を越えて祈りを捧げる場所は世界中にあるが、このバシリカにも、赤ちゃんを身篭るということは、人智を超えた領域だとあらためて感じさせられる、静寂と慈悲のエネルギーに満ちていた。

青空を仰ぐ人たち、抱き合って号泣する人たち

ホタテ貝が光の放射状とだぶっているデザインの標識

写真のように、ホタテ貝が光の放射状とだぶっているデザインの標識が、約数十メートルおきに立っている。

巡礼者が道に迷わないための大切な目印なのだ。

私たちは車を停めて、短い区間だったがちょこちょこ歩いた。

娘は5分も歩くと疲れた〜と、夫におんぶや抱っこをせがんでいる。

途中で、赤ワインのワイナリーが点在しているリオハ地方ではワイナリーがお布施ということで巡礼者にはタダで赤ワインを振る舞っている。

私はそれこそ赤ワインを何杯も飲んで、煽って、ナッツなどのスナックを食べながらすっかりいい気分になって歩いた。

何100年も、この道が存在していて、

その道を今、こうして歩かせて頂いている。

しかも、飲みながら!!!

極楽極楽

そうやって私たちは巡礼街道の要所に立ち寄りながら、通りすがりの教会と修道院でひと息をつきながら、そして最後には、前回の冒頭にも書いたとおり、ひどい吹雪に見舞われながら、10日ほどかけてサンチャゴの街に到着した。

こんなにズルした旅であっても、「ついに来たか。。。」としみじみ思った。

車でさえここまで感動できるのだから、いわんや徒歩だったとしたら。。。

しかも2、3ヶ月かけて全行程をもし歩いたとしたら。。。

一体どれほどの感動に包まれるのだろうか?

サンチャゴの大聖堂の前では、多くの巡礼者たちが木の杖をゴロリと傍らに投げ出し、石畳の広場に寝転がって青空を仰いでいた。

女子大生とおぼしき3人組は抱き合って号泣している。

みんなそれぞれに‘想い’があって、人生のどこかの地点でこのエル・カミーノを歩くことに決めた人たち。

彼らは、なにか大切なものを見つけられたのだろうか。

まずは相手に飛び込んで、ともに体験する

道端で休む巡礼者たち

写真は疲れ果てて道端で休む巡礼者たち。こういう姿を一日何回も見かけた

深い想い。。。

そこだけをとってみれば、

この私だってそうだ。

サンチャゴへの道程を肌で感じて、

宗教を越えたところにある人々の祈りのエネルギーを体感できればと思っていたのだ。

多神教の島国からきた私にとって、基本的に一神教の西洋社会には、なかなか理解のできないことが多い。

しかし、短い旅であっても、こうしてエル・カミーノの一部をなぞらせてもらい、その大元である彼らの世界観というか、宇宙観に触れさせてもらうと。。。

目の前の巡礼者たちを通して語りかけてくるものに純粋にひれ伏したい気持ちが芽生える。

宗教や文化、言葉が異なっても、

まずは相手に飛び込んで、ともに体験するダイナミズムは、私のなかの西洋社会に対する疑問や謎を、ある意味、一気に吹き飛ばしてくれた。

そのあとに私が見つけたのは、自らを大いなるものにゆだね、静かに祈る人間の姿は、最も美しい私たち人類のカタチだという、ごくささやかな再確認だった。

次号に続く→

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お読み下さりありがとうございました。

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ちなみに↓今住んでいるフランスから生涯免疫、細菌学、遺伝学について、ちょっと偉そうにYouTube動画撮りました(すみません)。動画編集してくれているのは、この時の娘っ子です。今度のお誕生日で17歳!❤️宜しければチャンネル登録してご視聴くださると嬉しいです♪

第25回 アルケミストの旅

スペインから戻って1週間

巡礼者のための橋

中世から使われてきた巡礼者のための橋。

澄んだ水に小魚たちがキラキラスペインから戻ってきたのは、先月末。

留守にしていたこの数週間のうちに、エジンバラはすっかり春らしくなっていた。

寒い日もまだあるけれど、水仙がいっせいにほころんで、風もいつのまにか、やわらかくなっている。

公園の芝生に腰を下ろし、ブランコで遊ぶ娘を眺めながら、これではスペインのほうが寒いくらいじゃないか、と思い出す。

スペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラへ辿り着く手前のセブレイロ峠で、すさまじい吹雪に見舞われたのは、わずか1週間前のことだ。

いつか、きっと、と願っていた旅

丘の上にひっそりとたたずむ教会

岩と一体化した教会が丘の上にひっそりとたたずむ。

このような無人の教会や修道院の跡がエル・カミーノ上にはたくさんあるのだ。

5、6年前に大好きな山川紘矢さん、亜希子さんの翻訳されたパオロ・コエーリョ著「星の巡礼」を読んで以来、サンチャゴ・デ・コンポステーラまで歩きたいと思っていた。

ピレネー山脈を越え、はるか中世から多くの巡礼者によって踏みしめられてきた道、‘エル・カミーノ’。

西へ西へ、ひたすらに歩き続ける祈りの旅。

いつかきっと、そのうちに、、、

そう思いながら、気づくと妊娠をして、子持ちになって、フットワークの重たくなったのを理由に先送りにしていた。

別にクリスチャンでもないし、幼児を連れて800kmを歩きぬくのは無理なことだし、第一、ふた月も休みがとれない。

車で!? それってズルじゃない?

鐘の音

この修道院のなかで呼吸瞑想をしていたら、鐘楼の真下だったので、突然!頭上で鐘の音が何回も鳴り響き、私はもう心臓が飛び出るほどびっくり!

瞑想中はどんな邪魔が入っても大丈夫、なんて自分を過信していたが、実際にはまったくその逆で、

小さな鐘楼ひとつで動揺してしまい、緊張のあまり身体中の血がブワッと熱くなって

しまった。

戦時中、空襲でいきなり空から攻められた市民もこんな身体感覚だったのかな。。。

ローソク

ローソクは巡礼の要所に欠かせない。空港でロストした

荷物が無事に出てきますようにと願いをこめて私も一本♪

イースター(復活祭)の時期に合わせて今回‘エル・カミーノ’をドライブすることになった。

でも、車で!?

まわりが黙々と歩いているのに、それってズルじゃない?

四国のお遍路さんをチャーター飛行機で一日数ヵ所まとめて参拝するのと同類さ。

歩く、という行為にイミがあるのであって、目的地に辿り着くのは二の次なのでは?

と思ったが、

子育てから解放されて、

数ヶ月間の休暇もまとめてとれて、

すべてのタイミングが整うのをマジメに待っていたら、

私は確実におばあさんになっているってばさ。。。

おばあさんになったら、歩くのはやっぱりきついからねえ、と腰をかがめて車に乗りこんでいるのかもしれない、などと言い訳を自分にしながら夫に素直に従った。

ピレネー山脈を貫通するトンネルの中で

奇跡の泉ルルドを抜け、車はトールーズからまわり込むようにしてピレネーに入る。

山脈を貫通するトンネルに吸い込まれると、かつては山越えに何週間もかかったという道のりが、わずか1時間ほどに圧縮される。

真空状態のような、トンネル内独特の振動と空気感に、娘がスースーと寝息をたてはじめ、そんなときは珍しく夫婦の会話が弾んだりする。

普段はしない話ができる。

歯磨き粉はなぜ白いのか、

とか、

隕石の組成はどうして今だに解明されていないのか、

とか。。。

そんな意味のない、答えのいらない、せわしなさの微塵も無い夫婦の会話だ。

→次回は、いよいよ祈りの道、エル・カミーノへ

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お読み下さりありがとうございました。

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