~出産について家族で揃い、あらためて感謝を伝える~

あと1週間でイギリスからパリへと引っ越すドゥーラの木村章鼓です。ユーロスターでたったの数時間とはいえ、学校も変わり、言葉も変わるわけですから、ここ数カ月落ち着かない日々が続いていました。転校のための書類は思ったよりもいろいろと面倒(健康診断なども含めて煩雑)でしたが、ようやく無事に子どもたちの新しい学校が決まりました。住む場所はまだ決まっていませんっ。パリでの最初のひと月は仮住まいをしながらの家探し。よいご縁がありますように~と願っているところです。
さて、今月はこれまでお世話してきた方々とのお別れをしてきました。今日は2年ほど前に立ち合ったバルト三国出身のママ、Iさんに招待され、ご実家のお母様と一緒につくった美味しいご飯を頂いてきました。旬の野菜をふんだんに使ったIさん親子の手料理に大感動です。よちよち歩くようになったMちゃんをあやしながら、チキンと野菜のオーブン焼き、セロリとナッツのサラダ、ヨーグルトソースをからめたキュウリの和え物とビーツと呼ばれる真っ赤な砂糖大根のスープを頂きました。デザートには木イチゴやクランベリーを漬けたコンポートに焼きたてのリンゴケーキ。そして食後は、お産の時の懐かしの写真を見ながら楽しくハーブティーを飲みました。お母様の入れて下さる温かいお茶を味わいながら、『ああこれはお産の前に行ったセレモニー以来だなぁ』と私はタイムトリップしていました。

毎回、私はお産の前に自宅訪問をしますが、その時には可能な限り、妊婦さんの実のお母様や姉妹、義理のお母様にも来て頂くようにしています。時代が変わり、男性が積極的にお産に係わってくれるようになってきたとはいえ、やはり実際のお産や産後の生活では、女性たち同士の助け合いが大切だと感じるからです。お産の前にドゥーラのような第三者を通して、いつもとは異なるセッティングで特別な場を設けることで、今一度、お産へ向けて家族が一致団結しやすくなります。これは本当にその通りだと実感します。
ただの内輪の集まりではなく、『安産セレモニーするよ~』と、少しだけ特別感をもって妊婦さんの自宅に集まって頂き、家族が輪になって互いを見つめあうと、いつもは当たり前に思えてなかなか言葉で伝えにくかったことでも、不思議と溢れてくるのです。また、妊婦さんの中でなにか言いにくいリクエストがあれば、事前に私の方で聴きとっておきますので、あらかじめ予防線を張ることもできます。たとえば、生まれてくる赤ちゃんの世話について、また、母乳育児の方針についてあれこれ周囲から言われたくない、とか、陣痛中は敏感になっているから出来る限りそっとしておいて欲しいなどといった妊婦さんの願いは、その場を利用してご本人からご家族に伝えられるように最大限応援します。もちろん、妊婦さんが切り出すタイミングを逃してしまった時などは私がソフトに介入させて頂き、お産前に言いそびれたことがないか配慮します。本当にひとこと、こころからの『ありがとう』でもいい。お互いに感謝の気持ちを伝えあったり、これまでの道のりを振り返ってねぎらったり、これからも宜しくお願いします、と手を握りあったり。ほんのささいなことかもしれませんが、一番近い女性たちからの応援や励ましを妊婦さんは何よりも一番必要としています。
これまで、安産セレモニーに参加した妊婦さんがはらはらと涙を流し、ひと泣きした後にはすっきりとした表情に切りかわるのを見届けてきました。きっと、妊婦さんの表情がゆるみ、ああ自分はもっと甘えてもいいんだ、困ったら迷わず頼ってもいいんだ、という気持ちになれた時、お産に対する意識のギアが大きくチェンジするのでしょう。
そして、その時に感じた安らぎや、喜びが深く大きいほど、妊婦さんは自信を持って陣痛と向き合い、立派に産んでいくことができます。サポートにまわるご家族にとっても、正直な気持ちを表現できる場は大事です。娘や姉妹のお産に対する不安や恐怖感もご家族側から出てきたら、私が仲立ちとなって、妊婦さんを守りながら、ひとつひとつ聴きとって差し上げることが大事だと感じます。
冒頭のIさんとそのお母様も、『安産セレモニーをしましょう』、とこちらが提案した時に、普段はあまり仲の良くないという妹さんを招いて3人で座りました。招かれた妹さんも実はその時に妊娠初期でした。自分のお産に役立つならとIさんのお産に自分も妹として立ち会いたいと希望していました。
客観的にみて、明らかに妹さんに対して過剰に気を使っているIさんのことが私は気になったので、お産が始まってから産後の養生期に妹さんとどうつきあっていくか、いくつかのパターンを想定して、Iさんといろいろと対応を講じた結果、妹さんが立ち合いつつも、Iさんは精神的に万全の状態でお産に臨むことができました。Iさん夫婦が主役となり、助産師さんに支えられ、ドゥーラも黒子として控えており、妹にも見守られ、ご本人の心から満足のいく理想のお産となりました。
私や助産師さんと穏やかなホームウォーターバースを体験したIさん。その一部始終を見た妹さんは、お産への見方が180度変わりました。そして半年後のご自身のお産に私を雇われました。いいお産は自然と伝播しますね。今は核家族化や都市化の影響などで、子産み子育てに関する世代間の知恵の継承が減りつつあります。でも、自分の家族、姉妹のお産体験が終始心穏やかな、本人の納得感の高い出産体験であると、家族はとても前向きな影響を受けます。産後に、姉妹愛、家族愛がぐっと高まります。
同時に赦しも起きますので、家族全体で抱えていた何かが無理なく癒されていくように感じるケースもとても多いです。私が立ち合った方ではないのですが、ある方がこんな話をしてくれました。養子縁組で幼いころに親戚に引き取られ、産みの母を長らく許せなかったそうですが、産後には赦すどころか、感謝の気持ちがとめどなく溢れてきたと話していました。
その理由は、その方のお産は微弱陣痛で3日がかりでした。その間、助産師さんが親身になって話を聞いてくれたり、マッサージやお灸をしてくれたり、ご飯を作ってくれたり、本当にたくさん支えてもらって乗り越えていったということです。難産だったにもかかわらず、最終的には願っていた通りのお産になった時に、『自分はこんなにたくさんの方々の助けを得ている。みなさんのサポートやエネルギーを頂いて生かされている。命を生みだすって素晴らしいこと!』と思えたのだそうです。
すると、自分のことも、尊い命だと深く思えるようになりました。幼いころ養女に出されたという過去の一点にこだわってきた自分が恥ずかしくなり、命をこの世に産みだしてくれた産みの母に対して、伝えても伝えきれないほどの感謝の念が湧いてきました。同時に、安全に今日まで育ててきてくれた義理の両親への感謝で胸が満たされ、自分の過去をリセットすると同時に子育てのよいスタートを切ることができたのだそうです。
お産って、本当にすごいなぁと思います。冒頭のIさんにしても、これまでとはまったく違う自分に生まれ変われたと話しています。それはどんな自分なの?と尋ねたところ、『もっと強い自分、ゆるぎない自分』と答えました。私はそれを聞いて、母親ひとりひとりが、もっと強く、ゆるぎない自分になれる可能性を秘めたお産の奥深さとその神秘に、膝まづきたい気持ちになりました。
こうやって語り部としてブログなどを通して発信することで、少しでも多くの産むかもしれない方が、より自分に合った産み方を見定めたり、赤ちゃんを産みだす瞬間も自分らしくいるために今出来ることを考えるきっかけにして頂けたら幸いです。
お読みくださりありがとうございました。