助産師さんとドゥーラたちの取り組み

キングストン病院内での勉強会の光景です。半分くらいが助産師さん、もう半分がドゥーラですが、産婦人科医も数名混じっています

6月は仕事が立て込んでいて、まるで生まれて来る赤ちゃんたちがそれぞれ語り掛け、そして、導いてくれていたような月でした。今日も産後visitの予約が入っていますが、元気にスムーズに生まれてきてくれて本当にどうもありがとう!と赤ちゃんたちにお礼を伝えている日々です。

さて、この1年関わっている活動に、Midwives Doula Working Together というプロジェクトがあります。地元ロンドンのKingston病院(NHS)において活動を率いている責任者は、助産婦長のBalvinder Reehal先生です。

彼女は長年の経験と知識から、バースドゥーラとの協働を図るほうが母子にとってメリットの大きいことをミッドワイフたちに日々伝え、両者が共に働くには、お互いのさらなる理解が必要だということで、このMidwives Doula Working Togetherを開催しています。この動きは、Kingston病院だけに限らず、ロンドンのあちこちで少しずつ芽生えてきています。
なぜこのような動きがイギリスで育ってきたのか、その経緯を知りたくて調べてみました。すると、Kate Greenstockさんのような情熱的なバースドゥーラたちが立ち上がり、助産師さんたちに献身的に働きかけた結果であることがみえてきました。Kate さんは、コーチングのプロとしても活躍するバースドゥーラですが、外務省に勤めるご主人と共に2年ほど日本に住んでいたこともあるとてもインターナショナルな女性です。

母親業で忙しくする傍らバースドゥーラとして活動する中で、Kateさんは地元の助産師さんたちとゆっくりと、でも着実に信頼関係を築いていきました。2012年のNormal Birth Study Day(正常産について学ぶ学習会)に彼女が呼ばれ、その席で、バースドゥーラとして、正常産にどのような貢献ができるのかについて発表しました。そのことがきっかけで、一気にドゥーラに対する見方、風向きが変わっていったようです。

Kateさんにお話を伺ったところ、その後、2015年に入ると、ドゥーラを伴うお産が増加する一方で、Kingston病院の管轄内で、サプライズホームバース(想定外の自宅分娩)が数件起きたのだそうです。つまり、病院やバースセンター(院内助産院)で出産予定だった産婦さんたちが、それぞれのドゥーラたちと自宅で陣痛をやり過ごしながらあまりに長く家に留まったためにお産が進み、施設へ移動することが出来なくなって、そのまま自宅で赤ちゃんが生まれたというケースが年間に数件あったということです。

Kateさんによると、当のお母さんたちの気持ちは安定していて不安感もなかったようですが、来院するであろうと予測し、待機していたバースセンター側や病院側としては、「ドゥーラがいるからまだもう少し家にいてもだいじょうぶ」と産婦さんが思い、そのまま赤ちゃんが自宅で生まれてしまうケースがさらに増えていくのは心配という見解を示したそうです。計画的な自宅分娩であれば、コミュニティーミッドワイフがNHS(国の医療システム)から確実に派遣されるため、家で産むことはまったく問題ないのです。施設分娩を予約しておきながら、成り行き上、家で赤ちゃんが産声をあげてしまうケースが増えることは懸念の対象なのです。

そこで、前述のBalvinderさんのようなミッドワイフの方々が立ち上がりました。どういうことかというと、産む女性たちに個人的に深く関わるバースドゥーラという存在に焦点をあてました。産婦さんの陣痛がいよいよ狭まってきて、バースセンター(院内助産院)や病院に産婦さんがバースドゥーラを伴って到着する際、もしもそこでバースドぅーラと医療スタッフとの信頼関係ができているなら、すみやかに連携をはかることができる、と判断したのです。そのためには、お互いの歩み寄りや、深いレベルでの理解が不可欠だと考え、助産師とドゥーラの関係強化促進のために定期的に集会を開くことを打ち出したというわけです。

そこからはトントン拍子で話が進み、今では多くの助産師が参加する月一の定例会が病院内のスタッフルーム(もしくは休憩室)で行われています。激務にもかかわらず、私たちドゥーラをいつもあたたかく歓迎してくれる助産師さんには本当に頭の下がる思いです。私のような外国人のドゥーラにさえも、廊下ですれ違う時に、「あなたドゥーラね!いつもありがとうねー!」とやさしく声をかけて下さる助産師さんもいます。ちなみに、私は施設内ではドゥーラのバッジを胸につけています。

バースドゥーラという人的リソースの可能性をさらによく知り、それを効率よく活用していったほうが、母子にとってはもとより、NHS(国の保険制度)全体にとって良いことであるという見解は、指導的な立場の方々(スーパバイザ―やシニアミッドワイフなど、病院やバースセンターという組織の中でまとめていく立場の側)の間により広く伝わっている印象を受けます。

また、現場で日々働く病棟の助産師さんたちも、バースドゥーラを伴ったお産を体験すると、
その可能性について開眼して下さることもあります。例えば、これは先週のお産で私が受け取った助産師さんからのフィードバックなのですが、

バースドゥーラが付いているお産が初めてだったので最初はちょっと戸惑ったのですが、産婦さんにずっと付き添っていてくれる存在は正直有難いし、産婦さんも終始とても安心していたので、これはすごくいい!と実感しました。またぜひ一緒に働きたいです

といった前向きな感想を残される助産師さんも少しずつ増えてきています。同じチームの一員として、お産終了後には、みんなで赤ちゃんを囲んで記念撮影し、語らい、ハグし合ってお互いをねぎらうなかでピア(同志・仲間)な関係を築けると、産後のケアにもつながりやすくなります。

どういうことかというと、お産を済ませたばかりの褥婦さんがその様子をみて、安心されるのです。ああ、私のドゥーラと助産師さんたちは連携ができているな、と。事実、妊婦さんが個人的にドゥーラを雇った時から、ドゥーラプロフィールをカルテに入れてもらうことも可能ですから(妊婦さん本人が希望する場合)、当日、どの医療スタッフが受け持つことになっても、スタッフの方々は担当のドゥーラについて、その理念やポリシーについてまで知ることができます(私も提供されているドゥーラプロフィールのフォーマット用紙に従って、顔写真を貼り付け、陣痛が始まったらドゥーラとしてどのように産婦さんを支える予定かといったことなど、私なりに自由に書き出したものを妊婦さんに渡し、妊婦健診の際に提出してもらうようにしています。ちなみに、キングストン病院では、年間5,6千件のお産を扱っていると言われています。そのキングストン病院が配っている小冊子には、婦人科系、小児科医を含めた地域の医療機関の紹介と併せて、ドゥーラ個人の紹介も掲載されています)。

今回は私の地元であるロンドンの病院での事例を取り上げて書いてみましたが、助産師さんに歩み寄って頂き、私たちもまた心をこめて歩み寄り、助産師さんの立場をもっとよく理解して、それを産みゆく女性たちに伝え、できるだけスムーズなお産へのお手伝いができるなら、それは本当に素晴らしいことだと思います。いいお産が増えていきますように。。。

Recipes for Normal Birth(正常産のレシピ)

この写真が、赤とピンク、2色のフェルトで縫ったハンドメイド‘命の道’です。
この写真が、赤とピンク、2色のフェルトで縫ったハンドメイド‘命の道’です。

少し前に、ここロンドン南西部でSara Wickhamさん(http://www.sarawickham.com/tag/induction/)の勉強会に参加してきました。

Saraさんはイギリスだけでなく世界的に注目されている助産師さんで、単独でデータを収集し徹底的に検証するというそのインディペンデントな姿勢は本当に素晴らしいです。嬉しかったのは、12年くらい前にエジンバラ市内の看護大学で行われた数回の公開講座に出席(看護学生でない私のようなドゥーラも多く出席していました)していた私のことを覚えていて下さったことです。単に日本人は珍しかったのでしょうが、生徒一人一人に目を配る温かさを感じました。

ともかく、先日のロンドンでの勉強会は充実していて、そのタイトル、Recipes for Normal Birthも気軽に学べそうな魅力にあふれています。美味しいご飯のレシピが欲しいように、誰だって正常産のレシピって?と覗いてみたくなりますよね。サラさんにRecipes for Normal Birthを広めることになったきっかけを伺ってみました(文末の英文も参照)。

「世の中には様々なたぐいのお料理本や、‘これは効く!’という処方箋や、指南書などが出まわっていますが、すべての人にぴったり当てはまる一冊なんて存在しません。お産においても同じこと。一律に行うルーチン介入という考え方は、すべての女性にフィットするはずがないのです。これからはルーチンという発想から身を遠ざけ、前向きな気持ちで、より現実的になっていくことが求められているのです。つまり、助産師として、助産学生として、医師として、ドゥーラとして、産前教育者として、そしてその他多くの周産期母子ケアに関わるケアの提供者として、一人一人に考えてみてもらいたいのです。‘一体、何が自分の力でコントロールできる範囲のものであるのか。そして、どうやってもコントロールできないものは一体何なのか?’ということを。たとえ思ったように進まないシナリオに出くわしても、そこで乗り越えていけるだけの基本的材料(basic ingredients)を確認しておきましょう。想定外への対処法や、思わぬ必要性に備えて用意しておきたいリソースの詰まった袋(a kitbag of resource)は、お産に関わるすべての人がそれぞれに持っておきたい大切なレシピです」といった風に、お産の過程とお料理のイメージを重ね合わせています。確かに、Saraさんの仰るポイントは分かります。妊娠中から自分なりのレシピを整えておくことの大切さは、母子ケアに携わるケアギバーばかりではなく、実は妊婦さんにこそ意識してもらいたいなと思います。

妊婦さんの場合には、さまざまなことを冷静に想定しながらも、感覚的なものを総動員して、さまざまなレシピの中から自分のレシピを選ぶ。例えば、住んでいる場所、その時の赤ちゃんの様子、自分の体調や、もともとの体質、環境や周囲のサポートなど、その時の状況から総合的に判断して、‘これが今ある自分の持ち札の中で最善の選択であろう’と思えるものを選び、そこで最も必要なものは何かについて考える。つまり、何が自分の求めるもので、自分にとってそれは本当に必要なことかを見極めていく、といくわけです。

‘レシピ’という言葉がぴったりなほどにいろいろな要素がよくも悪くも盛りだくさんな今のお産。自分なりに真剣に学び、選択していくことが、産後の納得感やその後の充実した子育てにつながっていくとても大事なプロセスだと感じます。そして、シンプル イズ ベスト。お料理の場合も、原材料にこだわったシンプルなものほど美味しいことを忘れてはなりません。

脱線しましたが、Saraさんの勉強会では、赤いフェルトを使って‘命の道’を縫う手芸コーナーなどもあって、美味しいランチとともにとても充実した勉強会でした。お産が進まない時に、トイレにこもって便座に座ったりすることは知られていますが、その際に、アロマオイルを便器の中に数滴垂らすと効果的といった使い方や、分娩中の姿勢といった実用的な知恵や知識もこの日はいろいろと学びましたが、ドゥーラの私があらためて確認した何よりも得難いものは、ドゥーラの役割の根幹をなす‘お産においてただ純粋に寄り添う’ということの意味についてです。

妊産婦さんと一緒に過ごす。椅子に座っているだけでもいい。産婦さんの傍らでチクチク裁縫をしたり、陣痛中に編み物をしているだけでもいい。その存在がどれほどの力となり、実際のお産によいインパクトを与えるかについて、Saraさんはシステマティックに、また明快に説明し、会場のドゥーラたちを何度もハッとさせました。

彼女のオフィシャルサイトには、たくさんの論文が惜しげもなくアップされていて、人工オキシトシンを分娩中に使用する母子への影響について分かりやすくまとめられた論文

( http://www.sarawickham.com/wp-content/uploads/2015/07/05-2015-01-Synthetic-Oxytocin-looking-beyond-the-benefits.pdf )

なども読めます。産むかもしれない方には出来るだけたくさん眼を通しておいて頂きたいと願ってやまないものばかりです。「いくらでもダウンロードして使って下さい」とSaraさんご本人も薦めていらっしゃるので、オフィシャルサイトからこの機会にみなさんも無料でいっぱい学ばれてみてください。

Recipes for Normal Birth by Sara Wickham

I think we need to move away from thinking that routine practices are the answer, and to stay positive by getting realistic about what we – as midwives, student midwives, doctors, doulas, childbirth educators or other birth workers – can and cannot control.  We need to understand the basic ingredients, know how to adapt them when things aren’t going to plan, and have a kitbag of resources to draw upon when something a bit extra is needed.

ドゥーラと助産師さんとの微妙な関係

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イギリス在住30年の助産師Mさん。看護師としての経験も長く、助産師になってからも15年以上臨床で活躍されてきた働くお母さん。そのMさんが現在お勤めしているのは、ロンドン北部にあるNHS(イギリスの国民保健)病院です。

つい先日ランチをご一緒した彼女から、普段はなかなか耳にすることのない貴重なお話を伺いました。なかでも、私にとって新鮮だったのは、助産師の中には「ドゥーラ」に対して疑問を抱いている方々もいる、という事実です。

Mさんご自身は、ドゥーラが産婦さんに付き添うことによるメリット(ドゥーラ効果)について深く理解されていますし、医学的エビデンスなどもきちんと学ばれていらっしゃる方です。周産期医療の現実を知るお一人として、助産師をはじめとする現場の医療スタッフの人手不足から、ドゥーラがお産に付き添う件数の増えてきている事態を、今のイギリスの周産期医療の大状況として静観されています。

そんなMさんですが、ある仲間の助産師が、「ドゥーラの付き添うお産なら、私はケアしたくない」と発言するのを目撃したといいます。理由は、ドゥーラの付き添うお産では、産婦さんはよりわがままになって、それがお産の進行にそれほど効果的と感じられないということ。

スタッフにとっては明るくないとケアしにくいにも拘わらず、病室のライトを薄暗くしてほしいとリクエストしてきたり、自分と相性のよくないケアギバーの交代を申し入れてきたり、不意にエッセンシャルアロマオイルを嗅ぎたいと言ったり、ベットから降りて床で産みたいと言い張ったり。。。その助産師に言わせれば、きっと言いたいことは山ほどあることでしょう。

Mさんも言います。急いで別の産婦さんのケアを終えて、煌々と明るい廊下から駆け込んでくる助産師にとっては、薄暗い部屋はいきなり真っ暗闇に突き落とされたように感じられて、眼が慣れるまでの最初の数分は、恐る恐る歩かないと、間違って産婦さんの手足を踏んでしまうのではないか、と冷や冷やすることがある、と。

これまでの私はドゥーラとして単にラッキーだったのでしょうか。今までは、看護師さんからも、助産師さんからも、小児科医からも、お母さんご本人からも、つまり、出会うほとんどすべての方々に、ドゥーラの付き添うお産は、付き添わないお産よりも良いものというベースを基にした感謝のメッセージやねぎらいの言葉を頂くばかりで、反ドゥーラ的なマイナス意見を見聞きすることがありませんでした。

ロンドンで活躍する別の助産師さんの話によると、「医師の3割はドゥーラの存在意義に対して懐疑的な意見を持っているかもしれないけど、残りの7割はちゃんと理解を示している、という感じ」とのことでしたので、そうか、お医者さんの中には数割のアンチドゥーラ派がいるのだなと認識していました。

ですが‘助産師’であれば、ドゥーラの存在意義に共感している方がほとんどであると今までは理解していたのです。勝手な思い込みだったかもしれません。でもそれは、助産師の方々との良好な関係を通して肌で実感していたものでした。また、‘産婦さんが望むこと(ドゥーラの付き添いも含めて)は出来る限り尊重して受け入れていきたい’という助産師の方々の基本姿勢を10年以上身近に感じてきた私にとって、ドゥーラとミッドワイフの協働とはお産において自然なこと、いや、それが実際に存在し得ることを体験的に知っていたのです。

そのうえで、これまでひとりのドゥーラとして、産む女性たちと出会い、お産について勉強して頂き、助産師と産むことについて学んで頂き、お手持ちの選択肢を知ってもらい、助産の大きな懐へと最終的に導いてきたつもりです。

ですが、今回のようなお話を個人的に伺ってみて、別の視点からみると、ドゥーラは、施設内勤務の助産師の現場の働き方にどのような影響を与えてきたのだろうか。。。と思わずにはいられません。今回のMさんのお話は、大病院で苛烈に働く助産師の立場になって今一度ドゥーラを眺める大切なきっかけとなりました。

余談ですが、Mさんの働く病院に現在ケアを求めてやってくる妊産褥婦の中では、ルーマニア国籍の方が確実に増えてきているそうです。この一年間は、彼女の勤務する病院では、実に33%、つまり三人に一人がルーマニア人の妊婦さんだったとのこと。ルーマニア人の妊婦さんたち全員とは言わないけれど、多くのお母さん方は、産褥パッド、赤ちゃんの産着やオムツ、毛布すら持たずに(すべてNHSが支給してくれると期待して)入院してくるのだそうです。

また、お産の数は増えているのに、それらをケアするために十分な人数が足りていないNHS側の現実も大きな問題であるとMさんは指摘します。このような事態が今後も続くと、NHSの持てる人的、物質的資源が枯渇してしまうのでは、、、という危惧を抱く声は日々、病院内外であがっているそうです。

UKへの移民の流入が止まらない中、『まるで時限爆弾を抱えながら周産期医療に従事している』と嘆く現場の危機感を訴える声に触れると、個々の施設の抱える内情を知らずに、私たちが医療消費者として、一方的に不平不満を言うことはできなくなります。

ちなみに、ONS(イギリス政府の統計)によると、UKに流入した移民は、2015年の一年間で82000人増えたそうですが、実際に、ルーマニアとブルガリアの移民だけで、50000人なのだそうです。これは、2014年より19000人増えている数だということで、いかにルーマニア・ブルガリアからの移民が爆発的に増えているかが数字からも伺えます。

以上、今号もまとまりのない文章になってしまいましたが、ドゥーラを受け入れられないケアギバーがいるという見識を得たので、ご報告でした。「アンチドゥーラ・ミッドワイフ」がイギリスにほんのわずかであれ存在することを知り、なぜこのようなミッドワイフ━ドゥーラの関係が存在するのかについて、さらにいろいろと学んでみたくなったので、また別の機会に書いてみたいと思います。