ドゥーラのリードで安産セレモニー

~出産について家族で揃い、あらためて感謝を伝える~

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あと1週間でイギリスからパリへと引っ越すドゥーラの木村章鼓です。ユーロスターでたったの数時間とはいえ、学校も変わり、言葉も変わるわけですから、ここ数カ月落ち着かない日々が続いていました。転校のための書類は思ったよりもいろいろと面倒(健康診断なども含めて煩雑)でしたが、ようやく無事に子どもたちの新しい学校が決まりました。住む場所はまだ決まっていませんっ。パリでの最初のひと月は仮住まいをしながらの家探し。よいご縁がありますように~と願っているところです。

さて、今月はこれまでお世話してきた方々とのお別れをしてきました。今日は2年ほど前に立ち合ったバルト三国出身のママ、Iさんに招待され、ご実家のお母様と一緒につくった美味しいご飯を頂いてきました。旬の野菜をふんだんに使ったIさん親子の手料理に大感動です。よちよち歩くようになったMちゃんをあやしながら、チキンと野菜のオーブン焼き、セロリとナッツのサラダ、ヨーグルトソースをからめたキュウリの和え物とビーツと呼ばれる真っ赤な砂糖大根のスープを頂きました。デザートには木イチゴやクランベリーを漬けたコンポートに焼きたてのリンゴケーキ。そして食後は、お産の時の懐かしの写真を見ながら楽しくハーブティーを飲みました。お母様の入れて下さる温かいお茶を味わいながら、『ああこれはお産の前に行ったセレモニー以来だなぁ』と私はタイムトリップしていました。

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我が家から歩いて数分のエノテカに集まり プロセッコで地元ママたちと最後の乾杯をしてきましたー。暑いからますます美味しいです~!

毎回、私はお産の前に自宅訪問をしますが、その時には可能な限り、妊婦さんの実のお母様や姉妹、義理のお母様にも来て頂くようにしています。時代が変わり、男性が積極的にお産に係わってくれるようになってきたとはいえ、やはり実際のお産や産後の生活では、女性たち同士の助け合いが大切だと感じるからです。お産の前にドゥーラのような第三者を通して、いつもとは異なるセッティングで特別な場を設けることで、今一度、お産へ向けて家族が一致団結しやすくなります。これは本当にその通りだと実感します。

ただの内輪の集まりではなく、『安産セレモニーするよ~』と、少しだけ特別感をもって妊婦さんの自宅に集まって頂き、家族が輪になって互いを見つめあうと、いつもは当たり前に思えてなかなか言葉で伝えにくかったことでも、不思議と溢れてくるのです。また、妊婦さんの中でなにか言いにくいリクエストがあれば、事前に私の方で聴きとっておきますので、あらかじめ予防線を張ることもできます。たとえば、生まれてくる赤ちゃんの世話について、また、母乳育児の方針についてあれこれ周囲から言われたくない、とか、陣痛中は敏感になっているから出来る限りそっとしておいて欲しいなどといった妊婦さんの願いは、その場を利用してご本人からご家族に伝えられるように最大限応援します。もちろん、妊婦さんが切り出すタイミングを逃してしまった時などは私がソフトに介入させて頂き、お産前に言いそびれたことがないか配慮します。本当にひとこと、こころからの『ありがとう』でもいい。お互いに感謝の気持ちを伝えあったり、これまでの道のりを振り返ってねぎらったり、これからも宜しくお願いします、と手を握りあったり。ほんのささいなことかもしれませんが、一番近い女性たちからの応援や励ましを妊婦さんは何よりも一番必要としています。

これまで、安産セレモニーに参加した妊婦さんがはらはらと涙を流し、ひと泣きした後にはすっきりとした表情に切りかわるのを見届けてきました。きっと、妊婦さんの表情がゆるみ、ああ自分はもっと甘えてもいいんだ、困ったら迷わず頼ってもいいんだ、という気持ちになれた時、お産に対する意識のギアが大きくチェンジするのでしょう。

そして、その時に感じた安らぎや、喜びが深く大きいほど、妊婦さんは自信を持って陣痛と向き合い、立派に産んでいくことができます。サポートにまわるご家族にとっても、正直な気持ちを表現できる場は大事です。娘や姉妹のお産に対する不安や恐怖感もご家族側から出てきたら、私が仲立ちとなって、妊婦さんを守りながら、ひとつひとつ聴きとって差し上げることが大事だと感じます。

冒頭のIさんとそのお母様も、『安産セレモニーをしましょう』、とこちらが提案した時に、普段はあまり仲の良くないという妹さんを招いて3人で座りました。招かれた妹さんも実はその時に妊娠初期でした。自分のお産に役立つならとIさんのお産に自分も妹として立ち会いたいと希望していました。

客観的にみて、明らかに妹さんに対して過剰に気を使っているIさんのことが私は気になったので、お産が始まってから産後の養生期に妹さんとどうつきあっていくか、いくつかのパターンを想定して、Iさんといろいろと対応を講じた結果、妹さんが立ち合いつつも、Iさんは精神的に万全の状態でお産に臨むことができました。Iさん夫婦が主役となり、助産師さんに支えられ、ドゥーラも黒子として控えており、妹にも見守られ、ご本人の心から満足のいく理想のお産となりました。

私や助産師さんと穏やかなホームウォーターバースを体験したIさん。その一部始終を見た妹さんは、お産への見方が180度変わりました。そして半年後のご自身のお産に私を雇われました。いいお産は自然と伝播しますね。今は核家族化や都市化の影響などで、子産み子育てに関する世代間の知恵の継承が減りつつあります。でも、自分の家族、姉妹のお産体験が終始心穏やかな、本人の納得感の高い出産体験であると、家族はとても前向きな影響を受けます。産後に、姉妹愛、家族愛がぐっと高まります。

同時に赦しも起きますので、家族全体で抱えていた何かが無理なく癒されていくように感じるケースもとても多いです。私が立ち合った方ではないのですが、ある方がこんな話をしてくれました。養子縁組で幼いころに親戚に引き取られ、産みの母を長らく許せなかったそうですが、産後には赦すどころか、感謝の気持ちがとめどなく溢れてきたと話していました。

その理由は、その方のお産は微弱陣痛で3日がかりでした。その間、助産師さんが親身になって話を聞いてくれたり、マッサージやお灸をしてくれたり、ご飯を作ってくれたり、本当にたくさん支えてもらって乗り越えていったということです。難産だったにもかかわらず、最終的には願っていた通りのお産になった時に、『自分はこんなにたくさんの方々の助けを得ている。みなさんのサポートやエネルギーを頂いて生かされている。命を生みだすって素晴らしいこと!』と思えたのだそうです。

すると、自分のことも、尊い命だと深く思えるようになりました。幼いころ養女に出されたという過去の一点にこだわってきた自分が恥ずかしくなり、命をこの世に産みだしてくれた産みの母に対して、伝えても伝えきれないほどの感謝の念が湧いてきました。同時に、安全に今日まで育ててきてくれた義理の両親への感謝で胸が満たされ、自分の過去をリセットすると同時に子育てのよいスタートを切ることができたのだそうです。

お産って、本当にすごいなぁと思います。冒頭のIさんにしても、これまでとはまったく違う自分に生まれ変われたと話しています。それはどんな自分なの?と尋ねたところ、『もっと強い自分、ゆるぎない自分』と答えました。私はそれを聞いて、母親ひとりひとりが、もっと強く、ゆるぎない自分になれる可能性を秘めたお産の奥深さとその神秘に、膝まづきたい気持ちになりました。

こうやって語り部としてブログなどを通して発信することで、少しでも多くの産むかもしれない方が、より自分に合った産み方を見定めたり、赤ちゃんを産みだす瞬間も自分らしくいるために今出来ることを考えるきっかけにして頂けたら幸いです。

お読みくださりありがとうございました。

潜在助産師とバースドゥーラの出会い

ピンクのシャツを着て私と手を繋いでいるのが西川直子さん、 直子さんお疲れさま―!とロンドンのお産関係の皆さんと記念撮影しました
ピンクのシャツを着て私と手を繋いでいるのが西川直子さん、直子さんお疲れさま―!とロンドンのお産関係の皆さんと記念撮影しました

潜在助産師という言葉を皆さんは聞いたことがあるでしょうか。私の中で「潜在助産師」といえば、助産師の国家資格を得て最初の数年間は施設勤務をしたけれど、結婚や出産を機に一時的に職場を離れ、その後、助産師として職場復帰しないというようなイメージが浮かびます。現在の日本には潜在助産師と呼ばれる状況の方は7万人ほどいらっしゃるそうです。私が数年間「ペリネイタルケア」(メディカ出版)に「ドゥーラからの国際便」というタイトルで連載させて頂いていた時にも、そのことがいつも頭の隅で気になっていて、コラムにも書いたことがあります。
10年ほど前、まだ日本に住んでいた頃に、「子どもを産むまではバリバリ実家の近くの総合病院で働いていたけど、あれから時間が空いてしまったし、子育てでも今の自分にはぜんぜん納得がいってないし、助産師として病院で働いていたなんて恥ずかしくてとても言えない」と、潜在助産師のお友達がこぼしていました。「周囲には絶対に言わない」と決めていらっしゃる様子が痛々しかったことを覚えています。もちろん私は「えー、言ってもいいじゃない!」と思いましたが、それがその時の彼女の在り様なのだから、彼女の‘ありのまま’を想い、信じることにしました。その後、彼女は助産師としてではなく、別の仕事に就いていますが、キラキラと輝き、働くママとして素敵な人生を生きています。

それにしても、子育て、転職、海外転勤、と人生にはいろいろあるもの。さまざまな事情はあると思いますが、せっかく助産師になったのであれば、そのスキルを眠らせておかずに、助産師パワーにあふれた生活を送ってもらいたいなと、助産師さんの一番の味方を自負する一人のドゥーラとしては願ってやみません。

そんな中、私が参加させて頂いているコミュニティーのひとつ(「お鍋の会」というお産関係のメーリングリスト)に、一年ほど前、ロンドンに到着したばかりという助産師さんからの書き込みがありました。世話焼きオバちゃんの私はすぐに、ようこそロンドンへ!と返信しました。そしてなんとその日のうちに娘の通う学校で待ち合わせることになったのです。そうやって急発展で助産師の西川直子さんとの交流が始まりました。

我が家を開放して開いている「らくだの会」には、コミュニティーミッドワイフ(ホームバースをメインに活動する助産師)の小澤淳子さんと一緒に西川直子さんには何度も足を運んで頂きました。一緒に時を重ねるうちに、お産に対する直子さんの熱い想いがひしひしと伝わってきました。今は現場にいないけれど、助産師として役に立ちたい、海外に住むことになった自分に何かできることはないのか?そんな思いを胸の奥に秘めながら、慣れない土地で幼い子どもたちを育てる直子さんのひたむきな気持ちが、すでに地元で助産師として働きながらネットワークを築いていたロンドン在住日本人助産師のみなさんを刺激したのでしょうか。ロンドンの助産師相談会の話があれよあれよという間に一気に軌道に乗ったようです。お互い見知らぬ者同士がほとんどだった最初の頃は、顔合わせの場として我が家を提供させて頂いていましたが、そのうちにメンバーが増え、距離の関係で直子さんのお宅へと移り、さらにはロンドンのイーリング市内のとある施設の一室へと移りました。

今では、毎週そこで長年開かれているベイビー&トドラーグループJ-Home byECCJ日本語教会(※)の集まりに、第一木曜日(10時)だけ、日本人助産師さん(ローテーションで担当)が母子相談にのるというボランティア活動が定着しました。場所は教会ですが、クリスチャンでなければ参加できないといったことは一切ないそうです。

直子さんは、病院勤務の現役助産師さんなどと比べ時間に余裕のある分、「忙しいみんなの代わりに何でもできることをします!」という姿勢でいつも協力して下さっていました。何かイベントを開くたびに、参加者の名簿や、各回の議題などをささっとまとめ、毎回またたく間に全員に配信してくれましたので、「らくだの会」も、直子さんのおかげでとても助かっていました。

その彼女が、再び、ご主人の転勤に伴いスペインへお引越しとなってしまったのです。いつもは旅立つ側の私が、めずらしく送り出す番です。涙をこらえ、彼女の助産師としてのパッションを称えながら、そして素敵なご縁に感謝しながら、「いってらっしゃーい!」と見送りました(つい先日、スペインへと旅立っていかれました)。
一人の潜在助産師さんが去った後、ここには眼に見えない絆、横のネットワークが置き土産として残されました。先述のイーリングの助産師相談会は、それぞれに想いをあたためていた助産師さん方は既に存在していたにせよ、直子さんのあの目覚ましい起動力がなければ今も最初の一歩を踏み出せていなかったと想像します。
つくづく、ひとりの力は大きいなぁと思います。たった一人では何もできない、ではなく、たった一人でもこんなにたくさんのことができるんだと痛感します。みんなが笑顔で子育てできるには一歩ずつ何をしていこうか、と真剣に考えている直子さんのような助産師さん。実はきっと、世界中にたくさんいらっしゃると思います。
直子さんは、「継続ケアの臨床経験は数年間しかありません」と公言されていました。でも私は、そんなことは気にしないでほしいと思います。助産師として臨床経験が多くても、中には、充足感を感じにくい職場状況で無理に働かざるを得ないままきているという方もいるでしょう。たとえ短い臨床経験であっても、多くの学びを得ながら豊かに自己研鑽し続けている助産師さんも多数おられることでしょう。
「助産師ですけど臨床経験少ないです。自分の子育ても自信ありません。でもお産が大好きです!赤ちゃんも大好きです!」と笑顔で体当たりしていく直子さん。そんな解放感あふれる彼女のもとに、たくさんの人たちが集まり、交流を深めることができました。‘くまなこさん’として、ブログも書かれていますhttp://ameblo.jp/jyosanshikuma/)。

世界中の潜在助産師さん!お産を扱っていなくても、職場復帰していなくても、まず、「私には助産師資格があります」と周囲に表明してみてくださいませ。そこから始まっていく新しい関係がきっとあると思います。

今回の私たちのように、(潜在)助産師が、住まう地域で、現役助産師、ドゥーラ、ヨーガインストラクター、臨床心理士、ヴェジタリアンの寿司職人、ヒプノバースのセラピストなどと繋がって、ローカルにお産シーンを盛り上げていくというのは、産みゆく女性とその赤ちゃんのこころの健康にとって常に大きな可能性を秘めていると思います。

他にも、自然食材の生産者、絵本作家、手作りのオモチャや手芸を作るアーティスト、美しい音色を聴かせるミュージシャンなど、その土地で活躍する他業種・異業種の横のつながりを大切にすることは、『いいお産の日』のイベントの盛況ぶりをみても分かる通り、女性が、母子が地域とつながるきっかけとなります。助産師がイベントの中核に携わっているけれど、助産師だけでは広げにくいダイナミクスと奥行きの幅をその活動にもたらすものです。だからこそ、ひとりひとりの小さな働きは、全体でみると、本当に大きいものなのですね。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という言葉があるけれど、一人ずつがささやかな力を持ち寄って生き生きと動く時、まるでパズルがはまったように、新しい絵が見える瞬間がやってくる、そんな気がしてきます。

※ベイビー&トドラーグループJ-Home byECCJ日本語教会
268 Northfield Avenue,
Ealing, London W5 4UB United Kingdom

Facebookページ、そして、J-HomeのFacebookページは以下を参照ください。

ECCJ日本語教会 FB Page:
www.facebook.com/ECCJ.Japanese.Church.in.London
J-Home FB Page:
www.facebook.com/ECCJ.BabyToddlerGroupForLondonJapaneseMum.JHome

産クチュアリーの守り人

仕事に行く前に娘が撮ってくれた割ぽう着姿の私です。どこで買えるの?と 麻好きヨーロピアンによく聞かれる100%麻製。KAPPOというお店です~。 http://web.ogiwara.co.jp/shop/e/ekappo/
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クリスタル、チベッタンベル、美しい絵の描かれたハガキ。。。私にはお守りとして持ち歩き大切にしているものがたくさんあります。人から見たら、不思議がられるかもしれませんが、自分には仕事をする上で大事なものばかりです。

バースドゥーラの仕事内容は多岐にわたりますが、もしひとことで語るなら、妊婦さん本人が産む力を最大限に引き上げられるように見守り、同時に目に見えないレベルでも継続的なお手伝いをすることです。

ドゥーラになりたてのころは、さまざまなトレーニングで学んだ声がけや効果的だと思われるエンパワメントを中心として、瞑想法やエクササイズなど、よりテクニカルな面を出しつつ、ピアな関係で、対等に女性と向き合っていました。ところが次第に、産みゆく女性を心の底から崇めている自分に気づかされていきました。

実際、お産の周辺にあって、女性は本当に女神としか思えない圧倒的な神々しさを放つものなのです。アメリカのテネシー州で自然出産を見守ってきた伝説のアイナ・メイ・ガスキン女史(彼女の半生を描いたドキュメンタリー映画です。私も日本語訳を付けるお手伝いをしました。http://watch.birthstorymovie.com/)は、現代のお産について語る時、以下のように言います。

If a woman doesn’t look like a Goddess during birth then someone isn’t treating her right. (Ina May Gaskin )「分娩中に女性が女神のように見えなかったら、それは彼女に対する待遇に何か問題がある」

いろいろと考えさせられる言葉だと思いませんか?

お産は、とくに初めて体験する方にとっては想像を超える持久戦なものです。ことに施設分娩では、医療従事者の方々が入れ代わり立ち代わり様子を確認するために入室しますので、場の空気が総入れ替えされ、リフレッシュしていい効果が生まれる時もあれば、逆に集中力が途切れることもあるかもしれません。

そんな時に、同じ人物が継続的にその場の空気感を保っていたとしたら、部屋のムードはずっと安定したものになります。哺乳類が太古の昔から適度に暖かく、適度に湿度があり、ほの暗く静かな出産環境を好んできたことは知られています。それは、風雨を避けられ敵の侵入してこないような安全な環境です。例えば洞窟の中とか、大きな樹木の根元とか。。。野生動物が好んで出産してきた環境を知ることで現代人も学びます。

人間の女性も、安定感、安心感を無意識に求めるものです。医学的にも、赤ちゃんを産む時に母体に緊張感があっては緊張ホルモンで知られるアドレナリンが放出されてしまい、なかなか子宮収縮を起こすオキシトシンを分泌できないことが分かっています。

安心できる環境が必要な妊産婦さんにとって、自分を女神のように愛おしさと敬意をこめて見守り、そばに付き添うバースドゥーラのような存在があることは、心の安定感を築き、その方の可能性を最大限に高める可能性があることを私は経験から実感するようになりました。それは最新のドゥーラ研究の報告をみても明らかです。産後うつの罹患率も減ることがドゥーラ効果の一端として注目されています。

また、仮にお産の進行が期待通りではなく、周囲の医療従事者、パートナー、妊婦さん本人でさえも希望を失いそうな時にあっても、最善を信じて祈り続ける人がお産の場にいることはとても大事なことだと感じます。

どのような状況下にあっても、たとえ瞬間的にパニック状態に陥ってしまったとしても、よりスムーズに最低限のストレスで乗り切るために産婦さんが赤ちゃんのためにできる最高のことは、深呼吸する余裕を持ち、気持ちを落ち着かせることだからです。

それを現場にあってサポートするのがバースドゥーラの役割だとしたら、バースドゥーラ自身はかなりタフでないと心身共にもちません。精神力や体力を高めるなどその人らしい自己鍛錬を続けている人がバースドゥーラには多いというのもうなずけます。事実、ロンドンの仲間の一人、日本人バースドゥーラの三浦順子さんは、毎日をヨーガと瞑想と食養に捧げ、健康で素敵な生き方をしている方です。

私には日々の鍛錬を継続するような強さはないけれど、それでも絶えず穏やかな気持ちでお産というサンクチュアリー(聖域)を守るために、日ごろからたくさんの引き出しをもつ努力はしています。

例えば、何か月先の予定日の方であっても受け持ちの妊婦さんの安産のお祈りは毎日決して欠かしません。なぜなら、それが効果的であると分かっているからです。どの宗教にも私は属しませんが、○○さんのお産が○○さんと赤ちゃんにとって最善で最高のお産となりますように。。。と祈願することは、目の前の木を眺めながらでも、星空を見上げながらでもできます。そして、私から彼女への想いは宇宙エネルギーとなって、彼女のお腹の赤ちゃんに届くことを過去の経験から私は知ったのです。

また、魔法の引き出しのひとつとして、海岸で拾った丸い石や、小さな木の実であっても、自分にとってのパワーストーンだと感じたら大切に扱い、妊婦さんとの間に育まれたあたたかい気持ちを注いで全体を包む込む思いで祈って棚の上に飾ったり、バックの中にしのばせておきます。必要な時にそれらをそっと握りしめると、その感触や音、エネルギーは私に瞬間的に壮大な宇宙の営みを思い起こさせ、自分の中に新しい力が注がれたようにリフレッシュできるのです。そのような私の状態が産婦さんや周囲の方々にも伝わり、良い方向にお産が進む助けになるように感じます。もちろん、産婦さんが望めば、陣痛の合間に実際に石を握ったり、チベッタンベルの音色を聞いてもらうこともよくあります。産前からそういったツールを駆使した個人セッションを行っていますので、聞き慣れた音や感触を確かめることで産婦さんは気持ちを落ち着けやすいものです。

香りや光もとても大事な要素です。先日のお産では、産婦さんが病室に持ち込んだレインボーライト(エッセンシャルオイルと水を入れると加湿器にもなる七色に移り変わる照明器具)を見たイギリス人助産師さんが入室するなり「あ~いい香り、まるで高級スパに来たよう!この部屋は一番居心地のよい空間ね!」と満面の笑顔で産婦さんに話しかけていました。それを聞いた彼女もどこかほっとした表情で、場は一段と和みました。産婦さん自身が選んだラベンダーの香りに包まれ、ほの明るいライトのもとでその後ほどなくして彼女は元気な赤ちゃんを産みました。

香り、光、音、感触、、、どれも目には見えないけれどとても大事な要素です。感触について言えば、私が意識的にお産の日に着るようにしている服は麻製です。麻は、汗などを適度に吸い取ってくれるせいか、長時間のお産の立ち会いでも疲れにくいのです。不思議なことですが、麻は出産にすばらしくふさわしい素材だと肌で感じ、少し調べてみたところ、実は麻は古来よりお産と深い関わりのある繊維なのです。

合原香須美さんの書かれた『近代における出産習俗の変容』には、麻に関する記述で、妊娠5ヶ月くらいで神社へ行き、麻をもらってきて、それを鉢巻のように頭に縛って出産に臨み、生まれた後にはそれを倍の量にして神社に感謝の気持ちを表して納めたというようなことが書かれていました。他にも、手首に麻のひもを巻いてお産にのぞみ、無事に生まれた後はへその緒をそのひもで縛ったことなどを知ると、麻とお産の切っても切れない関係が感じられてなりません。最初に着せる産着に麻の葉の文様を縫い付けることも風習としてあったようですが、麻のようにすくすくと大きくなって下さいという祈りが込められているということです。この麻の葉の文様は、正六角形なのですが、英語では、Hexagon とか、Hexagram(六芒星)と呼ばれます。カメの甲羅、ハチの巣のハニカム構造、土星の気流が描く環など、自然界の法則が目に見えるカタチとなって顕現する貴重な印のようです。

精神性や精神世界についての理解が深いイギリスで学んだ私のようなドゥーラたちが集まると、オフタイムはこういった目に見えないことをめぐる話で盛り上がったり、母乳育児に効くハーブや、おすすめのスピリチュアル音楽や、効果のあったという代替療法やクリスタル選びなどの情報交換会となることも多々あります。アーサー王伝説の残るグラストンベリーにも通っていますが、マザーアース(大地の女神)や女性性を祭る神殿での定期的な集い、ナチュラルバース関連のワークショップや女性性を高めるクラスが各地で連日のようにあり、そこには助産師やドゥーラなども集います。まるで私たちは現代の魔女やシャーマンのようだね、と笑い合うこともありますが、もちろん、イギリスのドゥーラ協会、DOULA UKでは、医師や助産師などの専門家をお呼びして正しいホルモンの仕組みを学んだり、ドゥーラ効果の医学的根拠のおさらいをしたり、世界的な母乳育児推進協会であるラ・レーチェ・リーグのIBCLCよりレクチャーを受けたりと、きちんとした学びも積んでいます。そういう意味で、眼に見えるものと、こころでしか捉えられないものをバランスよく吸収し、経験や足を使って地道に情報を仕入れ、ホリスティックな立場でお産に関わっているドゥーラは、これからの時代にますます求められる存在だと思います。

石ころのお守りをバッグやポケットに入れて、麻の割ぽう着で妊婦さんを支える存在は異色だけれど、でも、自分にしかできない働き方があるといつも感じています。

今回も長文になりましたが、お読みくださり有難うございました。