あるお母様から頂いた感想 ~ドゥーラケアについて~

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<産婦さんに教えてもらうこと。今の、ここで、生命力にゆだねる!>

20年以上前にイタリアの国営企業に就職して、月に何度もミラノやローマへ飛ぶような生活になってみて初めてメールを使いこなすようになった私ですが、当時はそれまでの生活に微塵も不便を感じていなかったので、最初のうちはインターネットの利便性が理解できず、ネットはまったく使っていませんでした。

その後のテクノロジーの加速ぶりはご覧の通り。何もかもがここまで便利な世の中になるなんて当時はまったく予想もしていませんでした。今では、ハタチまでネット知らずの環境で育つことができたことを心から有難く思うと同時に、社会人になってネットワークを広げていく時期にあわせてネットが私の人生に導入され、さまざまなことが可能になったことを振り返ると、タイミング的に信じられない程の恩恵だったように感じます。

もちろん小中学生の親として、子どもたちの日々の使用状況を巡って懸念するところも多いです。さまざまな懸念もされる今のネット社会ですが、それでも海外在住組には有難いことばかりです。例えば、私のようにドゥーラだと、妊娠中~出産~産後と長くお付き合いさせて頂いたご家族と、何年たってもどこにいても、ずっと繋がっていられることがとても有難いです。

最近も写真付きでこんな素敵なメッセージをロンドン在住の日本人ママ、おうかさんから頂きました。長文ですが、ご本人の気づきがとても尊くて、家族愛の成長を感じられる文面に私までとても嬉しくなりました。ご本人の了解を得てこちらでアップさせて頂きます。

おうか出産当日写真
<ひとつのチーム、お産は聖地>

『木村章鼓さまへ、

あらためまして、お産の時はどうもありがとうございました。今お産を振り返ると、あのお産の経験は、暖かいオレンジ色の光に包まれた、自分の両手の中にすっぽりと入るような感覚で思い出されます。

一人目をバースセンターで出産した後は、なぜか痛みをずっと鮮明に覚えていて、それがとてもひどくて、 病院の近くを通るたびに実際、お腹が痛んでいたくらいなのですが、今回は痛みの事は面白いくらいすっかり覚えていません。産後に読んだ雑誌に名古屋の吉村医院で出産した人のインタビューで、ここで産んだ人は次々と産みたくなると書いてあって、私も今回の出産以降同じように思っていたので、良い出産の経験は良い未来へと繋がるんだと思いました。そこであきこさんが、良い出産経験を増やすことが世界平和に繋がるとおっしゃっていたのが今もピンと響いています。

自分の側に絶対的な味方としてサポートしてくださる知識のあるドゥーラさんがいること。それだけでものすごく安心できたのですが、それは私の中でイギリスの医療をあまり信用できていないという事もあるのかもしれません。医療行為としてではなく人間としてのお産は本来どんなものなのだろう?という事をあきこさんのケアを通してあらためて考えられたのが本当に良かったです。

突き詰めて思うと、自分が今から産み出す赤ちゃんのことを、自分と同じように愛しいと思ってくれる人がもう一人傍らにいるということが、最大の安心に繋がったのだと思います。私がドゥーラさんにお願いしようと思ったのは、きっとそれだ。そして、その選択は大正解だった!と思います。

産後にあきこさんに自宅に来ていただいた時にずっと、カヤを抱っこしてくださって、 私の精神がすーっと安定したので、私たち夫婦以外にも新しい命を愛おしいと思ってくれる人が、他にもいるという事を知る事がこんなにも大切な事なのかと気付きました。

国立病院(NHS)の派遣助産師に出張してもらい、ドゥーラにも寄り添ってもらいながらホームバースできた事で、イギリスで同じ経験をした家族たちとつながる機会がたくさんできました。その人達の育児感や人生観から良い影響を受けつつ、より私らしい子育てができるようになってきたという感じです。夫婦の絆も産後はより強い絆になっていると良いのですが(笑)。家族の一体感は本当に増しました、一体感、強く感じています。3人だった家の中に人間が1人増えて、まだこんなに小さいのに存在感が大きく、調和がとれたという感じです。

あきこさんがよくおっしゃっていたイメージする事、これも今まで以上に意識するようになって、とっても楽にいられています。いろいろと教えて下さり本当にどうもありがとうございました。海外に住んでいるからか、自分の居場所、帰る場所という事を考えると、いつも不安定になっていたのですが、今回のお産を通してそのイメージがとても良い方向に大きく傾いた事もとても良かった事です。

あきこさんに来てもらって、命のこんなにすぐ側に寄り添うお仕事に本当に感動して、命のすぐ側のお仕事ができたらどんなに素晴らしいんだろうと思いました。教えて頂いた終末期に寄り添うpalliative doulaもどんなお仕事なのか、調べてみたところ、深く共感しました。ドゥーラは何も特別な言葉がいらないほど、誕生期そして終末期にとって自然な存在に私は思いました。出産の時だけではなく、人生のいろんな場面にそういう存在の人と過ごせたらなと思いました。

ドゥーラを知らない人に説明するのは本当に難しいです。産後、よく聞かれたのですが、どんな説明をしてもいつも相手にあまり伝わりませんでした。で、『「おうかちゃんっ!がんばれ!エイエイオー!」って出産中ずっと手をつないで、くじけそうな時も片時も離れずに側にいて応援してくれる人だよ』と説明するように変えたら、とたんに伝わり出しました。すいません。。。なかなか良い言葉がみつからず、とっても長文になってしまいました。

出産の日はあきこさんと写真を撮ってなかった。。。と思っていたら、撮ってくれてたんですね!嬉しいです!!!写真を見てあんなに早く、穏やかだったと思っていた出産もやっぱり壮絶だったんだなーと思いました。キアノは最初の方は赤ちゃん返り、新生児への嫉妬で大変でしたが、今ではすっかりお世話もしてくれて、自慢の弟をいろんな人に自慢して回っていまーす。ひと安心です。

私はマーケットのお仕事に戻る準備で初めて昨日、搾乳を試してみたのですが全くうまくいかず、ボトルを嫌がる子で、あらためておっぱいの神秘に感動しております。。。

最近の写真を送ります、成長したカヤを見てあげてください。寒くなってきたのでお体大切にお過ごし下さい。またお会いできるのを楽しみにしています!子どもたちを連れてまたいつか必ず遊びに行かせてください。 おうか』

元気そうな文面でホッとすると同時に、葛藤しながら搾乳している彼女の姿が思い浮かばれ、『今頃はおっぱい大丈夫かなぁ』と気がもんでしまいます。こうなると、もうおせっかいな親戚のおばちゃんレベルですよね。でもそれって実は、とってもすごいことだと思うのです。

私は外国でドゥーラとして女性をサポートさせて頂き、同時に、自分自身もたくさんの方々に日々支えられているという関係性の中で生かされています。さらにおまけで、世界中に愛おしい親戚家族がいっぱいできているんだ~!と想うと、ひたすらに有難い気持ちになります。

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<お産はいつも特別な聖地。ドゥーラはシャーマンかな?>

‘あきこさんに助けられました’、なんてお言葉を頂くと、いつもこそばゆくて「逆です~それは他でもない、この私の方です!」とひたすらに返すばかりです。先日も5人くらいお母さん方が集まり、子産み子育てのよもやま話をしていたのですが、「こんな風にママたちが集まると、ハッキリ言って言葉なんて要らない境地があるよね~。みんな同じように惨めな気持ちになったり、自分を責めたり、疲労で気を失いそうになったり。誰しも同じ道を通ってきている戦友だー!みたいな」と深い一体感と共に全員が深く頷き合いました。いつも感じることだけれど、つい先日だったので、今、鮮明にその瞬間の女性たちとのワンネスの感覚が残っています。

ドゥーラって、結局は地域のお母さんだから、どこまでいってもピアな関係なんですよね。お産という人類共通の記憶をベースに、女性同士が瞳を合わせる時に、お互いのエネルギーが根元的に交流しあって、私たちは究極的にひと繋がりの存在だと体感する。それがとても心地良くて、祈りのように尊くて、だからドゥーラを続けているんだろうなぁと思います。

まるでチベット仏教の砂絵曼陀羅のような私の短いドゥーラ人生。砂を使って地面に描く美しいパターンのように、新しい土地で新しい絵柄をつむぎ、夫の転勤を告げられたら、過去にこだわらずに一気にさぁ~っと手放して、次の土地へと旅立つ。行った先では休業したり、軌道に乗るのにフランスのように1年もかかる。でも、さまざまな意味でそれまでの成功や執着を断ち、自分の欲から自分を解放させるための修行&恩恵に満ちた経験でした。
そうそう、もうひとつ大事なことがありました。パリに来て最初の頃に産後ドゥーラで伺ったお宅は、お母さまが二人目を産んだばかりで産後の肥立ちがまだ心配される頃でした。上のお子さんも小さくて大変な時に、御主人は出張ばかりということで、乳腺炎になりかけていた彼女が私を呼んだのです。張ったおっぱいをゆるませる方法や、添い乳の姿勢、血流量をアップさせてくれるエクササイズ、足腰をあたためる食事&環境づくりなど、相手の質問に答えながらたっぷりおしゃべりをしました。その方とつい先日数カ月ぶりに会ったら、とても元気そうで、パリでのお友達をどんどん増やしながら駐在生活を満喫されていました。こんな表情をする女性だったんだ!と驚くほど瞳のキラキラ輝く彼女を抱きしめながら私までワクワクしてきました。

ドゥーラとして関わったお母さま方からメールや手紙をもらうことは究極の幸せだけれど、やっぱり実際に会ってハグできるのが最高です。成長して太くなった赤ちゃんの腕に触れながら、「すっかり元気そうで良かった!」と母子のぬくもりを感じられるのがドゥーラをしていて一番の報酬です。もちろん、すべての方々と直接逢えないからこそ、冒頭にも書いた通り、インターネットがその部分を着実に補ってくれてはいるのだけれど。。。

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<私の好きなこと。直接ハグして、お互いをライブで労うこと>

つれづれに書いているので、行きつ戻りつの内容ですが、とどのつまり今回のブログで伝えたかったことは、もしあなたに会いたい人がいて、でも直ぐには会えないなら、メールや電話で勇気を出してみてくださいということと、もし直接会えるなら、少しでも時間を創出して、10分でもいいからライブで会ってきてほしい、という2点なんだと思います。じかに交流するエネルギーは、メタモルフォースの源泉。想像をはるかに超えた力がありますよね。
引っ越しや人との別離は、インターネットの普及のおかげで、今やそれほどハードルの高いことではなくなってきているけれど、それでも逆に今のような時代こそ、実際に会って交流し合うことの価値は計り知れないものになったとひしひし感じます。

‘今のここ’を大切に、ますますこころとからだに優しいお産がこの世に増えていきますように。。。

最後にこちらでもこの夏の3回のお話会のお知らせを再度シェアさせて頂きます。7/12(木)、7/30(月)、8/7(火)のいずれかでメルマガをとってくださっている方々と実際にお目にかかることができたらとても嬉しいです。もしいらっしゃれる方は会場でぜひ声をかけて下さい。

【お産道場 お産の寄り添い「人として大切にされるお産とは」を考える】
日時2018年7月30日(月) 19:00~21:00 18:30開場 終了後22時までフリータイム
会場 NPO法人Umiのいえ  http://www.uminoie.org/
参加費 3500円+税  (お夜食におむすびをご用意しております。)
ゲスト 木村章鼓
お申し込みはこちら: https://coubic.com/uminoie/150119

【 世界に広がるドゥーラの輪〜ドゥーラからの国際便〜 】
日時 : 2018年 7月12日 (木曜日)
9:00より受付開始 終了12:00
場所: 都内
会費 : 4000円  (お茶&お菓子付き 先着 30名)
託児はありませんが、お子様連れ大歓迎です!
申し込み方法:
こちらまでメールをお願いします。
doulashipjapan(@)gmail.com
(@)を@に変えて送ってください。お申し込みをしてくださった方に詳しい場所、スケジュール、お支払い方法など送ります。ドゥーラシップジャパンhp
https://www.facebook.com/events/2144434235785374/permalink/2144439339118197/

【 慶應義塾大学 公開講座 <患者学> ゲスト講演 木村章鼓 】
日時 : 2018年 8月7日 (火曜日)
時間:18:00
場所: 慶應義塾大学 信濃町キャンパス考養舎
参加費 無料
申し込み不要

長い文章を最後までお読みくださりいつも有難うございます。

木村章鼓

ドゥーラのリードで安産セレモニー

~出産について家族で揃い、あらためて感謝を伝える~

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あと1週間でイギリスからパリへと引っ越すドゥーラの木村章鼓です。ユーロスターでたったの数時間とはいえ、学校も変わり、言葉も変わるわけですから、ここ数カ月落ち着かない日々が続いていました。転校のための書類は思ったよりもいろいろと面倒(健康診断なども含めて煩雑)でしたが、ようやく無事に子どもたちの新しい学校が決まりました。住む場所はまだ決まっていませんっ。パリでの最初のひと月は仮住まいをしながらの家探し。よいご縁がありますように~と願っているところです。

さて、今月はこれまでお世話してきた方々とのお別れをしてきました。今日は2年ほど前に立ち合ったバルト三国出身のママ、Iさんに招待され、ご実家のお母様と一緒につくった美味しいご飯を頂いてきました。旬の野菜をふんだんに使ったIさん親子の手料理に大感動です。よちよち歩くようになったMちゃんをあやしながら、チキンと野菜のオーブン焼き、セロリとナッツのサラダ、ヨーグルトソースをからめたキュウリの和え物とビーツと呼ばれる真っ赤な砂糖大根のスープを頂きました。デザートには木イチゴやクランベリーを漬けたコンポートに焼きたてのリンゴケーキ。そして食後は、お産の時の懐かしの写真を見ながら楽しくハーブティーを飲みました。お母様の入れて下さる温かいお茶を味わいながら、『ああこれはお産の前に行ったセレモニー以来だなぁ』と私はタイムトリップしていました。

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我が家から歩いて数分のエノテカに集まり プロセッコで地元ママたちと最後の乾杯をしてきましたー。暑いからますます美味しいです~!

毎回、私はお産の前に自宅訪問をしますが、その時には可能な限り、妊婦さんの実のお母様や姉妹、義理のお母様にも来て頂くようにしています。時代が変わり、男性が積極的にお産に係わってくれるようになってきたとはいえ、やはり実際のお産や産後の生活では、女性たち同士の助け合いが大切だと感じるからです。お産の前にドゥーラのような第三者を通して、いつもとは異なるセッティングで特別な場を設けることで、今一度、お産へ向けて家族が一致団結しやすくなります。これは本当にその通りだと実感します。

ただの内輪の集まりではなく、『安産セレモニーするよ~』と、少しだけ特別感をもって妊婦さんの自宅に集まって頂き、家族が輪になって互いを見つめあうと、いつもは当たり前に思えてなかなか言葉で伝えにくかったことでも、不思議と溢れてくるのです。また、妊婦さんの中でなにか言いにくいリクエストがあれば、事前に私の方で聴きとっておきますので、あらかじめ予防線を張ることもできます。たとえば、生まれてくる赤ちゃんの世話について、また、母乳育児の方針についてあれこれ周囲から言われたくない、とか、陣痛中は敏感になっているから出来る限りそっとしておいて欲しいなどといった妊婦さんの願いは、その場を利用してご本人からご家族に伝えられるように最大限応援します。もちろん、妊婦さんが切り出すタイミングを逃してしまった時などは私がソフトに介入させて頂き、お産前に言いそびれたことがないか配慮します。本当にひとこと、こころからの『ありがとう』でもいい。お互いに感謝の気持ちを伝えあったり、これまでの道のりを振り返ってねぎらったり、これからも宜しくお願いします、と手を握りあったり。ほんのささいなことかもしれませんが、一番近い女性たちからの応援や励ましを妊婦さんは何よりも一番必要としています。

これまで、安産セレモニーに参加した妊婦さんがはらはらと涙を流し、ひと泣きした後にはすっきりとした表情に切りかわるのを見届けてきました。きっと、妊婦さんの表情がゆるみ、ああ自分はもっと甘えてもいいんだ、困ったら迷わず頼ってもいいんだ、という気持ちになれた時、お産に対する意識のギアが大きくチェンジするのでしょう。

そして、その時に感じた安らぎや、喜びが深く大きいほど、妊婦さんは自信を持って陣痛と向き合い、立派に産んでいくことができます。サポートにまわるご家族にとっても、正直な気持ちを表現できる場は大事です。娘や姉妹のお産に対する不安や恐怖感もご家族側から出てきたら、私が仲立ちとなって、妊婦さんを守りながら、ひとつひとつ聴きとって差し上げることが大事だと感じます。

冒頭のIさんとそのお母様も、『安産セレモニーをしましょう』、とこちらが提案した時に、普段はあまり仲の良くないという妹さんを招いて3人で座りました。招かれた妹さんも実はその時に妊娠初期でした。自分のお産に役立つならとIさんのお産に自分も妹として立ち会いたいと希望していました。

客観的にみて、明らかに妹さんに対して過剰に気を使っているIさんのことが私は気になったので、お産が始まってから産後の養生期に妹さんとどうつきあっていくか、いくつかのパターンを想定して、Iさんといろいろと対応を講じた結果、妹さんが立ち合いつつも、Iさんは精神的に万全の状態でお産に臨むことができました。Iさん夫婦が主役となり、助産師さんに支えられ、ドゥーラも黒子として控えており、妹にも見守られ、ご本人の心から満足のいく理想のお産となりました。

私や助産師さんと穏やかなホームウォーターバースを体験したIさん。その一部始終を見た妹さんは、お産への見方が180度変わりました。そして半年後のご自身のお産に私を雇われました。いいお産は自然と伝播しますね。今は核家族化や都市化の影響などで、子産み子育てに関する世代間の知恵の継承が減りつつあります。でも、自分の家族、姉妹のお産体験が終始心穏やかな、本人の納得感の高い出産体験であると、家族はとても前向きな影響を受けます。産後に、姉妹愛、家族愛がぐっと高まります。

同時に赦しも起きますので、家族全体で抱えていた何かが無理なく癒されていくように感じるケースもとても多いです。私が立ち合った方ではないのですが、ある方がこんな話をしてくれました。養子縁組で幼いころに親戚に引き取られ、産みの母を長らく許せなかったそうですが、産後には赦すどころか、感謝の気持ちがとめどなく溢れてきたと話していました。

その理由は、その方のお産は微弱陣痛で3日がかりでした。その間、助産師さんが親身になって話を聞いてくれたり、マッサージやお灸をしてくれたり、ご飯を作ってくれたり、本当にたくさん支えてもらって乗り越えていったということです。難産だったにもかかわらず、最終的には願っていた通りのお産になった時に、『自分はこんなにたくさんの方々の助けを得ている。みなさんのサポートやエネルギーを頂いて生かされている。命を生みだすって素晴らしいこと!』と思えたのだそうです。

すると、自分のことも、尊い命だと深く思えるようになりました。幼いころ養女に出されたという過去の一点にこだわってきた自分が恥ずかしくなり、命をこの世に産みだしてくれた産みの母に対して、伝えても伝えきれないほどの感謝の念が湧いてきました。同時に、安全に今日まで育ててきてくれた義理の両親への感謝で胸が満たされ、自分の過去をリセットすると同時に子育てのよいスタートを切ることができたのだそうです。

お産って、本当にすごいなぁと思います。冒頭のIさんにしても、これまでとはまったく違う自分に生まれ変われたと話しています。それはどんな自分なの?と尋ねたところ、『もっと強い自分、ゆるぎない自分』と答えました。私はそれを聞いて、母親ひとりひとりが、もっと強く、ゆるぎない自分になれる可能性を秘めたお産の奥深さとその神秘に、膝まづきたい気持ちになりました。

こうやって語り部としてブログなどを通して発信することで、少しでも多くの産むかもしれない方が、より自分に合った産み方を見定めたり、赤ちゃんを産みだす瞬間も自分らしくいるために今出来ることを考えるきっかけにして頂けたら幸いです。

お読みくださりありがとうございました。

ミシェル・オダン氏との再会とエフラスペース

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すっかり春めいてきましたね、お元気ですか。私は年明けから3月まで、日々吸収することばかりで、それらをまとめてアウトプットする余裕のない生活のままノンストップでドゥーラをしていました~。ハタと気づいたらもうお雛様の季節なんですね。忙しかったのは、2月末締め切りの原稿を抱えていたことも大きかったです。その原稿は東京医学社の「周産期医学」(http://www.tokyo-igakusha.co.jp/f/b/index/zc01/6/oa_table/b_z_top.html)という医学専門誌の「なぜ今メンタルヘルスなのか?」で特集となり2017年の5月号(第47巻5月号)に掲載されます。すみません発売もされていないのに宣伝してしまいましたっ。

さて、昨晩は、現在ロンドンで受講しているフランス人産科医ミシェル・オダン氏の連続12週間の講座でした。昨日は、Pre-labour caesareans and stress deprivationという題目ということで、自然な陣痛が始まらないうちに行う帝王切開によるリスクとストレスについて学んできました。特に、通常であれば赤ちゃんの血中に認められるメラトニン(ダークネスホルモン、暗闇のホルモンと呼ばれることもあるとか)について。自然な陣痛の始まらないうちに行う帝王切開によって生まれた赤ちゃんの血中にはメラトニンが皆無か、ほとんど検出できないことについて解説していたのが印象に残ります。

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メラトニン(melatonin)とは、動物、植物、微生物それぞれの生物学的な機能における体内時計(サーカディアン・リズム)として働くホルモン。さらには、強力な抗酸化物質として、私たちのDNAやミトコンドリアを保護しています。ミシェル・オダン氏は、このメラトニンのプロテクションという特性を挙げ、核DNAが守られていない状況で赤ちゃんのからだ、特に‘脳’に対してどのような影響があるかについて、お産に関わるすべての人がもっと関心を払う必要があると語りました。北欧での最近の研究データからご自身の1983年に発表されたランセット(The Lancet:医学誌)のデータまで、いろいろなEBM(科学的根拠)も引き合いに出しながら、陣痛促進剤使用のリスクと、帝王切開を行うタイミングの重要性について最後まで繰り返し強調されていました。

昨晩のオダン氏のレクチャーをひと言でまとめるなら、いかなる促進剤も使わないで、自然に陣痛が始まるのを‘待つ’ということが、ヒトにとって、とてつもなく重大だということに尽きます。若手助産師さんたちばかりではなく、私と同じくらいの世代(40代)の助産師さんたちまで一生懸命にノートにオダン氏の貴重な言葉を書きつけている姿に私は、未来への希望を感じました。

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レクチャー後の懇親の場でオダンご夫妻とお話をする機会に恵まれました。親日派で知られるオダン氏に、「ロンドンにもたくさんの日本人助産師さんが働いていらっしゃり、ドゥーラやヒプノセラピストや様々な代替医療に関わる仲間たちも一緒に月一で集まっているんですよ」と伝えたところ喜んでいらっしゃいました。また、日本で本格的に立ち上がっているドゥーラの活動母体、ドゥーラシップ ジャパン(doula ship Japan) https://japandoulaassociation.wordpress.com/ に向けてもこのような熱いメッセージを頂きました。

「発足おめでとう。日本にも必要なケアだと思います。お産はシャイホルモン、恥ずかしがり屋なホルモンの分泌を促すことが最も大事だということを大切にして、そこの部分を助ける(産む当人のプライバシーがしっかりと尊重されている時空間の創出に寄与する)役割を果たしていってください」

あたたかい氏の言葉に感動しました。。。いつお目にかかっても圧倒的な母子へのパッションと包容力があり、講演後のひとりひとりへのハグにもキスにもあたたかい氏の愛を感じます。私も今ちょっと、しばらくお風呂に入りたくない気分です(笑)。余談ですが、日本に対してずっと気になっていることがあるのだそうです。およそ1年半前、2015年の8月、順天堂大学医療看護学部母性看護・助産学のウィメンズヘルス看護学、プライマルヘルス研究会主催の第3回プライマルヘルス学会来日の直前にオダン氏は自宅で転倒されてしまい脳震とうを起こし、五反田で開かれた学会にお越しになれなかったことがありました。受け入れ側の皆さんにラストミニッツでご迷惑をかけてしまった、そのことをずっと申し訳なく思っている。。。とおっしゃっていました。

余談になりますが、実は私もその時のプライマルヘルス学会は、オダン氏は急に来日がかなわなくなったものの出席していました。東京での時間は私にとってほんのわずかな一時帰国中の時間です。氏の講演会ならスコットランド時代に看護大学などでも聞いたことがあったので、絶対に東京でオダン氏のレクチャーを聴かなくては!という訳ではなかったのですが、この時はオダン氏の講演だけでなく、ドゥーラ研究者の岸利江子さんが日本に紹介したドキュメンタリー映画「Microbirth」の上映もプログラムに入っていました。字幕スーパーを少しお手伝いさせて頂いた私としては、日本の医療者の方々、お産関係者の方々がどのようにこの映画を観て下さるのかとても興味があり参加したのです。大田康江氏によるとても興味深いパワーポイントも用意されており、映画、マイクロバースのほうも皆様真剣に観て下さり、ああやってたまたま一時帰国と重なり出席させて頂けて本当に良かった!と思っています。

昨晩、オダン氏には、ぜひお元気なうちにまた日本へ来て頂きたいですっ!と最後にお伝えしておきました。お元気そうですが今は80代後半ということで講演されることも少なくなってきたと聞きます。もしイギリス在住の方がいらしたら、4月11日までの毎週火曜日の7時からですのでいかがでしょうか。オダン氏の連続講座の詳細は会場となっているエフラスペースのサイトでご覧になって下さい。参加者全体のおよそ半数が助産師さん、残りはドゥーラや妊婦さんやバースアクティビストたちという感じです。
http://www.effraspace.co.uk/

ちなみに、2017年4月18日はThe highways to transcendence という題目でお話されますので、個人的に特にこの回は聞き逃したくないと思っております。「宇宙的、時間的な超越への高速道路(近道)」とでも言ったらよいのでしょうか。すでにオダン氏の講演は何回か聴いており、氏の本はほぼ読破しているので、何を語られるのか今から容易に想像はつくのですが、‘超越’について、ライブで伺えるのはとても貴重な体験です。今の時代、肉声で、生身の存在から受けとるダイレクトな何かって、言葉や数値では表せなくても十分に価値のある、本当に得がたいものになりましたから。

しかもこのエフラスペース、手作り感あふれるステキな空間なのです。ゆったりくつろげるソファーがあってカウンターバーがあって、ハーブティーやワインも飲める。でも一番のスペシャル感は、何といってもセレクトされたお産関係の本が買えるという点です。近所にプリンター・アンド・マーティンという名前(http://www.pinterandmartin.com/)の出版社があって、素晴らしい出産関係の本をせっせと出版しているのですが、エフラスペースはその出版社の展示スペースのようなものです。ほんとうに、‘せっせ’と思わず表現したくなるようなクラフトメーキングな書籍ばかりを出しているインディペンデント系の出版社です。

例えば、薄い冊子の「Why ◯◯is matter?」シリーズ。なぜお産には◯が必要なの?と、○の部分には、それぞれの刊の内容に応じて、‘doula’とか‘midwife’とか‘spirituality’といった言葉が入ります。どの刊もさらっと読めて、分かりやすくお産におけるそれぞれの○の重要性を理解できる構成となっています。他にも、シーラ・キッツィンガーの伝記(http://www.pinterandmartin.com/a-passion-for-birth.html)などは厚さ7-8センチのハードカバーで、こちらはかなり読みでがあります。私も15年近く前にこのシーラ・キッツィンガ―(http://www.web-reborn.com/interview/kitzinger.html)というイギリス人社会人類学者について知り、頭をガーンと殴られたような衝撃がありましたが、彼女が亡くなられた今、この本の価値はとても大きいと思います。

エフラスペースでは、常時様々なマタニティー関係の講座や、ヨーガ、産後ママの子育てグループのほか、看護学、助産学の教授による学術発表レベルの講演なども単発で行っていますし、選び抜かれた良質な書籍も手に入るのですから、ロンドンでこれから妊娠するかもしれない、産むかもしれないという方は要チェックスポットです。住宅地の真ん中に建つ、一見ひなびた地区公民館のような風情ですが、ビクトリア線のBrixton駅から私の足で7-8分です(グーグルには徒歩12分と表示されているけど)。バス37番なら徒歩1分に停留所があるので意外とアクセスはいいと思います。イメージとしては横浜のUmiのいえ(http://www.uminoie.org/p/umi.html)と似ているかもしれません。ロンドンのエフラスペースに、横浜のUmiのいえ、どちらも貴重な子産み子育てのリソースセンターですので、こういう空間が世界中にもっとたくさん増えていくようにとの願いを込めて紹介させて頂きました。