古い家には危険がいっぱいだ。
でも、エジンバラの美しい街並みがこうして昔のままに残されているのは、古いものへの審美眼が人々のなかに歴然とあるから。
家が、過去につながることのできるタイムトンネルだから・・・
驚くほど低い手すり、バーベルのように重たすぎる窓枠にも文句は言えない。

私たちは、4階建ての2階に住んでいる。
ひとフロアーに一世帯のつくりなので、この建物には、私たち以外に3家族しか住んでいない。
入居した日の夕方は、週末のせいか3家族とも留守だったので、翌朝、さっそく挨拶に行った。
この国には隣三軒両隣にご挨拶にいく習慣はないかもしれない。
でも、でもね。。。
自分がもしも外国人ファミリーを迎える立場になったら。。。
と何度も想像してみた。
そこでさんざん悩んだ挙句、1軒につき7ポンドくらいを目安に、粗品を考えた。
これくらいならば受け取る側も負担にならないかな〜と思い、日本人なのだから日本らしいもの、ならばタオル!!!とも考えた。
だが、この国では誰もが日常生活のなかでハーブの香りと親しんでいるので、ラベンダーや、カモミール、カレンデュラなどの石けんの詰め合わせ箱を‘入居のごあいさつ’として持参したところ。。。。
こちらがひくくらい大喜びをして頂けた。
『日本には、ご挨拶の習慣があって。。。』と私が伝えると、
そーかそーか(ニコニコ)、よく来たね、この番地に!
と3家族とも本当に笑顔で迎えてくださった。
それにしても、ただのご挨拶のつもりが、さあさお茶でもどうぞ!となって、お邪魔させて頂き初対面だというのになんという長時間のご挨拶なのだろう〜と私は感激。
みんな、とっても良さそうな方々!
そして、全員がリタイアメントの世代だった。
半地下階(メゾネットタイプ)には四人の子持ちのトニーさんご夫妻。
お子さんは全員が既に家を離れていたが、世界ナンバーワンランキングのイギリスの大学院に4人のうち3人が通っていたり、実際に教鞭をとって教えていたりで、アカデミックなご家庭の様子。
使っていないピアノがあるから、練習したかったらいつでも弾きに来てねと娘に話しかけてくださった。
2階➕半地下みたいなメゾネットの巨大な空間で、キッチンなどは明るい庭(まるでターシャテューターの様に嫌味のない、それでいてお手入れの行き届いたイングリッシュガーデン)に大きく開口部が開かれていて、なんともモダンにリフォームされている。
しょっぱなから私はとんでもないお洒落な空間に度肝を抜かれた。

一階には、文部省で退職まで働きあげたジョンさん&アンさんご夫妻がいて、やはり4人のお子さんがいるが、こちらも全員巣立っていた。
エジンバラ市内やポルトガルにいくつもの家があるらしくて、たまにしか住んでいない様なことを話していた。
アンさんが『どうぞ早く入って!』と言うと、ジョンさんは一瞬いかめしい顔つきをしたが、私と娘がヴィクトリア調のソファーでぎこちなくしていると、奥からお孫さんのおもちゃを持ってきてくださった。
トニーさん宅よりも、あれこれと質問責めにあった。
アンさんが一番喜んだのが意外にも、私の母乳育児だった。
『私も四人をお乳で育てたものよ〜懐かしいわ〜。ああ本当に懐かしい』
とあんまりにも言ってくださるものだから、思わず長居して授乳をしてしまった。
初めての家で!!!!!
しかも外国で!!!!!
じゅにゅ〜〜〜〜〜〜〜うっ!!!!!
ありえない図、どう見ても。
でも、話が盛り上がっている最中で自然な成り行きで展開されてしまったし、これから長くお付き合いする隣人なので、母乳育児事情(待った無しのせわしなさ)を空気感で伝えられたかもしれない。
アンさん宅で眠りに落ちた娘をベビースリングに入れて、最後の隣人、階段を4階まで登る。
そう、エレベーターはもちろん、ない。
最上階(4階)から見下ろすと、お腹がキュンと痛くなるほど高くて(そりゃそうだ、ワンフロアなのに床から天井までが5メートルくらいあるのだ!)、それなのに手すりは低い(70センチほど、日本では通常90センチ)ことが、下見に来た時よりもリアリティーを持って気になってくる。
ああ、娘が今この瞬間、スリングの中で眠ってくれていて本当によかった!
今は娘の身長も1メートル程度なので、なんとか手すりの役割を果たしていても、遅かれ早かれ、おてんばな彼女が身を乗り出すたびにこの階段で私はヒヤリとさせられることになりそうだ。
築200年ともなると、子連れ一家にとっては、住んでみてあらためて気づかされることが意外とある。
たとえば、窓である。
リビングルームには大きな開口部が3つあり、それぞれの窓は床から4メートル近くある。空気を入れ替える時は、まるでバーベルを持ち上げるように、巨大な窓枠を床から上に向かって引き上げる仕組みになっている。
これが、大変な力仕事なのだ。
落下防止用の窓枠ストッパーがついているものの、相当な重さだ。
誤って子どもが床と窓枠の間に手を挟まないだろうか。
ここでもまた心配になってしまう。
子供を持つ前の私なら、『不安を引き寄せるから不安感は持たない』と天真爛漫に生きてきたスピ系が、今はこんな些細なことでなぜこんなに心配になるのだろうか。
わ〜キレイな漆喰飾り!と即決したアパートだったが、急にいろいろと不安感が押し寄せてきた。

今、バシャールに聞きたい気分だ(笑)。
『なぜ私たちはここに住むことになったのですか』と。
それは、あなたの中の神につながるためだ、なんて言われそうだ。
いつものように白昼夢に一瞬スペースアウトして、白い天使の飛び交うクーポラの天窓を見上げながらしばし佇んでいた私は、4階に住む最後の住人のドアベルをようやく鳴らした。
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