第21回 クラスメートの妊娠

アイルランドの大自然!

〈休暇でアイスランドにやってきた首都レイキャビクからほんの20分車で走るともう大自然!〉→

大学院のクラスでは、全員が全員、20代前半である。

青年も皆いい子たちばかりだ。

母であり妻であり学生である私のことを、それぞれに理解(同情?)してくれているよう。

娘をとっても可愛がってくれるし、

ナーサリーが休日で娘をあずけられず、私がどうしても家にいなければならない時は、

みんな我が家に集まってパワーポイントでの資料づくりをしたり。

親子ともども風邪で倒れた週にはノートを届けてくれたり。

各国のクラスメート、と〜っても親切だ。

なかでも、アメリカ人のアレクサとは特別に通じ合うものがある。

というのも23歳になる彼女は、大学院に入学したと同時に妊娠したのだ。

今でもハッキリ覚えている。

最初のクラスの後、たまたま帰りが一緒になった私達がお互いのプライベートに触れた時のこと。

私が子持ちと知った彼女は、一瞬安堵の表情を浮かべ、

「私も来年おかあさんになるの」と言った。

天然温泉

アイスランドの間欠泉、凄い迫力!

後期に入って、アレクサは、学業の負担を半分に減らすため、フルタイム学生からパートタイム学生に切り替えた。

それによって彼女と顔を会わす機会は週2回から1回に減った。

ご主人はイギリス人の外科医。

彼もとっても好青年だ。

本人も健康そうだし、ヨーガに通ったりしながら妊娠中の体力づくりにもしっかり励んでいて、一見なんにも問題はなさそうなのだが、彼女は毎週の授業で私を見つけるたびに「ちゃんと産めるかしら?」と聞いてくる。

そのたびに私は、おまじないのようにアレクサのやわらかいお腹にそっと触らせてもらいながら

「だいじょうぶだからね、おかあさんちょっと心配しているみたいだけど、一番いいカタチでやってきてね」と声をかける。

そうやって毎週毎週、アレクサに、そしてアレクサのお腹に、

そして、

実は誰でもない私自身に

「だいじょうぶだよ~」を何度となく言い聞かせてきた。

男子学生たちにも影響が

そのうちに、見えない変化がクラスにもあらわれてきた。

それまではまだ若いせいかアレクサの存在にまったく無関心だった男子学生たちが「アレクサのお腹だいじょうぶそう?」と私にたずねてきたり、アレクサに「お腹に手をおいてもいい?」と聞くようになった。

しまいには、国際保健に関する授業でのグループワークのテーマに‘アフリカにおける自宅出産について’を選ぶまでになった。

男子学生も、身の回りに妊婦さんがいると、自然とお産に興味が出てくるのだろうか。

生まれた!

みんなとってもいい笑顔

アイスランドの幼稚園見学しました!

そうして、つい2日前、朝起きてパソコンを開けると。。。

「おかげさまで今日大きな女の子が生まれました!」

という喜びのメールがアレクサのご主人から届いていた。

「やったー!」

私はひとり叫んでしまった。

またひとつ新しい命がこの世に生まれた。

さっそく他のクラスメートたちにも連絡をすると、そのうちの一人から、

「アレクサの大きなお腹に触れたことで、大学院で学ぶことが机上の空論に終わらず、つねに現実感を与えてくれてきた気がする」というようなメッセージが返ってきた。

社会に戻すための、学問

幼稚園

アイスランドの幼稚園のセンスのよさにびっくり!

ほんとうに、このアメリカ人男子学生の言うとおりだと思う。

いくらすごいことを勉強しても、

難しいことが解っても、

それが日々の日常にいかせなくては、意味がない。

というか、もったいない!!!

せっかく学ぶ機会を与えられているのだから、社会に戻すことをイメージしてこれからも学生を続けていこう。

そんな勇気をあらためて感じさせてくれたアレクサに、こころから‘ありがとう’と伝えたい。

そして彼女が大学に復帰した暁には、彼女の押すベビーカーの横で、私は娘を遊ばせながら本を探していたいもんだなぁと思ったのだった。

次号に続く→

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お読み下さりありがとうございました。

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第18回 今やるよ!人生無駄なし

エジンバラから少し遠出して、週末旅行に行ってきた。

スコットランドの世界遺産ニューラナークだ。

いろいろな意味で悪名も高かった産業革命で、人々の生活が一律に管理されていく中で、この村だけは人々の健康を守り、就労時間以外はレクリエーションも豊富に提供されていた。

病人も他の産業都市よりずっと少なく、次第にニューラナークは産業革命時代のロールモデルとなっていった伝説の村だ。

今では、昔ながらの遊びが体験できるエドゥケーショナルな博物館となっている。


写真は、鉄の輪が倒れないようにバランスをとりながら、鉄の棒で輪を手前に転がしていく遊びだ。

かなりのスピードで走り続けないと、輪がすぐパタンとなってしまう。とても難しくて、私は一度も成功せず。。。

すぐに諦めてしまったよ(涙)。

昔から、難しいことは苦手で、努力するのも嫌いだった。

そんなあの頃の自分を振り返ってみると、中学までは学級委員をするようなタイプだったんだよね。

それが、高校に入って一気にデビュー。

授業なんてそっちのけでいくつものクラブ活動をかけもちしながら文化祭に、体育祭に没頭し。。。

そのうちに成績も下降線を辿り、ついに高校3年の進路指導では、第一志望校を先生に伝えるなり『悪いことは言わないから考え直しなさい』と諭されるまでになっていた。

私は外国の人々の生活や宇宙観、死生観などに興味があったので、そのようなことを勉強できる学科を受験するつもりだったのが、心ない担任のひとことに一時は『そうか、自分の力では無理なんだ。。。』と思った。

ところが、導入されたばかりの小論文の一芸入試制度のおかげで、奇跡的にも第一希望校の学部学科に拾ってもらうことができた。

この写真もニューラナーク↓

哲学も、社会学も、よく学んだ

今になって思うと立教大学ではいろいろと学ばせていただいた。

哲学では近代哲学のショーペンハウアーや、ハイデッガー、ニーチェをかじり、エリアーデも面白く読んだ記憶がある。

社会学も興味深かった。

マックス・ウェーバーの説くプロテスタンティズムと資本主義の精神について何度もクラスで話し合ったことも懐かしい(あんまりよく理解していなかったけどね)。

他にも、古代イスラエル史、人類学、理学部の授業なども選択科目でとってみたが、どの分野も身動きがとれなくなるほどの密度の濃さで、膨大な知の系譜を前に圧倒された。

なかでも、宗教音楽と宗教美術にひときわ感動した。

知れば知るほどにキリスト教美術は不可思議で、特にマグダラのマリアなどはすべてが隠喩的で、表現の限界があった当時、様々な意味合いを込めて女性性の復活や血の結びつきが語られていて、少ない知識ではとても理解仕切れないほどに奥深いのが音楽と暗号である当時の美術なのだ。

研修旅行ということで、ラベンナのモザイクとグレゴリアン・チャントを聴きに、皆川達夫教授、名取四郎教授と一緒に私たち学生も2週間ほどイタリア周遊できたことは今となっては良い思い出だ(お二人の本を以下に載せた)。

お二人とも、とても紳士で、行く先々の教会で素敵な課外授業を繰り広げてくださる知の巨人だった。

キリスト教美術の源流を訪ねて (2) 地中海都市編

中世・ルネサンスの音楽 (講談社学術文庫)

その旅がきっかけで、私のなかのイタリアはどんどん大きくなっていった。

そのままイタリアにハマり。。。

卒業論文のテーマもイタリアの社会学をベースにしたものでおさめた。

しまいにはアリタリア航空にも勤めるというご縁にも恵まれた。

しかし結婚後、夫と海外を転々として、結婚8年目に娘を抱くことになる。

そんな学業とは無縁となった一母親が、10年以上のブランクをへて、娘の誕生を契機に目覚めた。

妊娠以来、毎日新聞インタラクティブで産後まで拙い連載を書かせて頂いていたが、お産について知れば知るほど、その小さな窓からは私たちの生きる社会がありありと見えてくる。

うやむやではなくて、女性として今の時代に生かされながらしっかりと理解しておきたいと思うことが自分のなかで次第に山積みになっていった。

漠然と知りたかったことがフォーカシングできてくると、同時に勉強し直したいという気持ちが高まる。

そこで色々と読み漁っていたところに夫のスコットランド転勤である。

良いタイミングに祝福されて、娘は自宅から徒歩5分のナーサリーにいきなりだったにもかかわらず週3回通わせてもらえることになり、英会話学校にも通えて、最終的にはこうして一学期の論文も提出できたのだから、本当にありがたいことだ。

世界で今も女性は産んでいる。

語られてこなかった女性たちの歴史は、本当に凄いんだ。

それをみんなと分かち合いたい。

だから、

今の自分に何ができるんだろう????

今日も同じ思考のループに乗っかって、静かに窓の外を眺めている。
→次号に続く

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第17回 この人に逢いたかった〜

大学院の生活がアップアップなのに、私ときたらどこまで貪欲なのだろう。

でも、逢いたい方には逢っておきたい❤️

しかも、

かえって両方同時に進めることで学業がはかどるだろうと思い、30年以上ホームバースの利点について語ってきたナディーン・エドワード博士の元を娘を連れた。

予想通りの素晴らしい女性だった。

もう感激し過ぎて、私は首振りべこ状態であった。

そして、彼女の主宰する産前産後教育者の2年間コースに申し込んだのだった。

月に2回、土日丸2日の内容で、子連れでも通えるという。

エドワーズ博士は、お産の世界で有名なAIMS(お産における医療消費者センターのような組織)の創始者のお一人だが、現在、エジンバラ市内でBRC(バース・リソース・センター、その後、名称はPPCに変更)という施設を運営している。

妊娠した女性や、赤ちゃんを抱えたおかあさんたちが産前産後クラスに通うスクールのようなところで、彼女の長年の活動内容に私はこころから共感した。

そこで、教育者も養成しようということで、SBTA(スコティッシュ バースティーチャーズ アソシエーション)を主宰していたのだ。

ナディーン・エドワード博士の話

赤いチェックのストール

窓辺から見える木の根本に赤いチェックのストールが落ちている。

なんとなく秋の気配を感じて心が静まる。

日本からの来客を快く出迎えてくださったエドワーズ博士。

エルダリーフラワーのハーブティーを入れてくださった。

『産みゆく女性が、妊娠、出産、育児を通して、自分のこととして起こるひとつひとつの出来事の意味をていねいに考え、本当の意味で、物事を主体的に判断していくプロセスで、真の自分と出遭っていけるようサポートする』

というのは、口で言うほど簡単なことではない、とお茶をすすりながら語る。

『こころと身体のつながりはとても大切です』

という部分に力を込めて、私をじっと見つめた。

つい先月、ご自身のお嬢さんのホームバースに付き添ったばかりというエドワード博士は続けた。

『今まで、数えきれないほど多くの女性たちの声を聴いてきましたけど、お産とは身体的、精神的であるばかりか、特にその人のスピリチュアリティーに大きく影響を与えるものです。

お産は、特にホームバースは、ルーティンケアや不必要な医療介入から身を守り、一対一のケアを受けられるという点で、産む女性の自律性を高める可能性に満ちています。

豊かな自律性を生むお産とは、自律的な助産師の存在によって決まっていくものです』と、とうとうと語るエドワーズ博士。

自律性—-肉体的、精神的、霊的な気づきまでも

この自律性というのが興味深い。単に肉体レベルの話ではなく、人生を豊かに生きていくうえでの必要な判断力、決断力を高めたり、霊的な気づきまでをも含んでいるというからだ。

どうやらここスコットランドでは、ただの『お産好き』だった私のような者にとって、想像以上にいろいろなことを学ぶ機会がありそうだ。

今の私の英語レベルでは正直きついが、エドワード博士おすすめの専門書も原書でいろいろと読んでいければなぁと思っている。

えっ?日本語の本ばかり読んでいるうちはダメって?

ハイそのとおり(涙)

冒頭にも書いたとおり、今は院の課題図書以外はまだ日本語の本ばかり手にとってしまうけど、出来るだけ英語の文献は原書で読むようにしなければなーと思う。

現状では、英文読解だけでアップアップで、行間を読み取ったり、読後感に浸る余裕は全然ないけど。。。

目下の目標は、英語の本を読んでも『自分らしさ』に水をやったような清々しい気分になれること、かな。

それにしても、奥がふか〜い道に踏み出してしまったものだ。

→次号に続く

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